未来世界
翌日、その翌日と、俺は世界の入院する病院へと通った。その間に叔父と叔母は、一度たりとも姿を現さなかった。酷い話とはいえ、その方が世界にとっては気の休まることかもしれない。しかし三日経てど、世界の病状は良くなることはなかった。日に日に咳き込む回数が増えてきて、息苦しさを覗かせるようになる。
さすがにおかしいと思い、その日の見舞いの帰り際に、俺は一人の看護師に詰め寄った。はじめは渋っていたものの、しつこく俺が聞くものだから遂には折れて、話の一部を語ってくれた。
「実はね、伊勢原さんの病状は良くないの。本当はもっと、機材の整った病院に転院した方がいいのだけれど、保護者の方が応じてくれない。もし彼女が君の大切な人なら、少しでも応援してあげて欲しくて――」
看護師は、その後も話を続けていた。でも、あまり内容を覚えていない。だって訳が分かんなくて、言ってる意味が滅茶苦茶で、頭の中は真っ白で。世界の病状が良くないなんて、世界はただの風邪だって言ってたよ。
きっと嘘をついてるんだ。俺が無理やり話を聞いたから、嫌がらせにこんなことを言ってるんだ。深刻そうに、重々しい顔なんかしちゃって、俺はそんなので騙されたりはしないんだ。
確かに世界は辛そうにしている時もあった。だけど総じてみれば良い時の方が多いし、話している時の世界の顔は、いつもの世界と変わらないんだもの。俺の方が世界と過ごした時間はずっと長いし、薄情な叔父や叔母なんかより、俺が一番に世界のことを理解している。だからそれを確かめようと、俺の足は再び、世界のもとへと向かっていた。
病室の前で立ち止まって、小窓から中を覗いてみる。そこには決して俺に見せることのない、必死に病と闘う世界の姿があって。それを見た時に分かってしまった。頭より先に心が、残酷な未来を描いてしまった。
頬を伝う涙に気付いて、その理由をようやく頭で理解すると、とても立ってなんかいられなくて。蹲って、声を殺して、静かにひっそりと泣き続けた。