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掌編小説

秋空なのに

作者: タマネギ

目覚めると、カーテンの隙間から、

足元まで日差しが伸びていた。

秋の日差しにしては、熱を帯びた光に、

純子は智史と過ごせる時間が、

今日も、終わりに近づいていることを

感じた。


気持ちを振り払うように、

まだ眠っている智史の腕を

すり抜ける。


そのまま、光の中に立ってみると、

身につけた下着越しに熱が伝わる。

シャワーを浴びようと、

椅子に掛かったバスローブを

手にとるが、

その光と熱が心地よくて、

着るのを止めた。


純子は、乳房を自分の腕で隠し、

カーテンを少しだけ明けて、

窓に額をつけた。


見えるのは、秋空なのに、

清々しさがない。

何故……もうすぐ時間だから。

それ以外にも、

理由がある気がする。

光と熱があたらない肌はやはり寒い。


抱きあった後眠りについて、

目を覚ますのは、大抵、

純子が先だった。

そんな時、部屋の中にいることに、

息が詰まりそうになる。

今もそれに変わりはない。

でも、それだけじゃない。

この秋空の下で、過ごしたい……

自分の我が儘だと思うけれど、

智史は何と言うだろうか。


純子は溜め息を一つ落として、

カーテンを閉めた。

振り返ると、

智史が背中を向けて眠っている。

疲れているのだ。

仕事や家のことが忙しくて、

ふだんは眠る間もないらしい。


純子が触れられない世界が、

智史の背中にあった。

それなのに、智史の…男の感触だけは、

艶めかしく体を這ってくる。


ああ、優しい人なのだ。

だから、全部を背負ってしまう。

純子の体にいる間も、

背負っているのだろうか。

そうだとしても、

今はそれを下ろしていて欲しい。


純子は自分の溜め息を、

智史に拾ってもらいたくて、

振り返ったことを悔やんだ。


゛ねえ……少しだけ、外に出てみない? ゛


純子は、悔やんだ自分を打ち消そうと、

丸まった智史の背中に呟いた。

返事があるわけではない。

空の下、新鮮な智史の

顔を、見ておきたくなった。


その時、二人は感じる。

ああ、この人は相手のことを

思っていると。

体だけを、

求めてきたんじゃないと。

そんなシナリオまで思い浮かんだ。


「そうしよっ…」


智史が突然言った。


「……そうしよっ、先に行って…」


智史が部屋から出る時、

純子に放った言葉だった。

純子は無性に寂しくなった。


ああ、もうすぐ時間、

家に帰らないといけない。

暮らしに戻り、

暮らしのために生きていく。

智史との時間は、

秋空の下には流れそうにない。


純子は、寝返りを打った

智史の顔を見ないように、

バスロープを手に取り、

シャワールームに向かった。

それは、智史の顔に、

純子を包んでいた光と熱の端が、

届いた時だった。

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