13年後 冬
シンが行ってしまってから、ちょっとした変化もあった。
まず、杉山くんに「イケメン見つかった?」と探りを入れたら、「なんのこと?」と怪訝な顔をされた。彼は彼女をとっかえひっかえすることは無くなって、卒業まで同じ彼女と付き合っていた。
それから私は、第一志望では無かったけれど第二志望の地元の大学に合格した。
大学に入ってからはバイトしたり、友達と旅行したり、初めて彼氏も出来たりして楽しい大学生活だった。そして就職難の中、ストレスで病みそうになりながらもどうにか就職し、あんまり世間的にはよろしくない社内恋愛をしたり、お別れをしたりして、結婚もしないままあっという間に30歳を迎えてしまった。
シンとの思い出はずっと心のどこかにひっそりとあって、時々記憶を引っ張り出してはあの不思議な出来事に思いを馳せる。
でも、年を重ねるにつれてだんだん記憶も曖昧になっているように思う。
12月初旬の夜の冷たい空気を吸い込むと、ノスタルジックな気持ちがシュッっとひきしまる。残業で遅くなったので、家までの道の途中にあるコンビニで晩ごはんのおでんを買う。レジのクリスマスケーキの注文のチラシが目に入る。
今年のクリスマスもきっと一人で過ごすんだろうな。いやいや。まだあきらめちゃいかん。
そんなこと考えながら、夜道をゆっくり歩く。電柱の蛍光灯が所々で道を白く照らしている。
自宅のアパートに到着すると、ポストに不在通知が入っていた。宅配ボックスに荷物をいれておきましたと書いてある。
ネットで最近何頼んだっけ、と思い出せずとりあえず箱を持って部屋に戻って開けてみることにする。
部屋に入ってとりあえずエアコンのスイッチを入れて、届けられた荷物の包装紙を開いてみる。
包装紙を開けた瞬間、目に入ったのは見覚えのあるブランドカラーの箱だった。
まさか…
震える指でさらにその箱を開ける。
そこにはかつて私が彼に「憧れる!」と話した例のバッグにメッセージカード添えられていた。
「Happy X'mas 愛をこめて。今の君ならきっと似合うと思います。from S and A」
息がとまりそうになる。
あの図書館の青春の匂い。私の憧れ。好きだった人。
もう二度と会えない。
「うう…」
嗚咽が漏れる。
「P.S. 今幸せです。」
私はギュッとバッグを抱きしめる。
初恋は実らない。
でもずっとキラキラしている。