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Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)  作者: 湖灯
★★★ Black shadows approaching(迫り来る黒い影)★★★
8/53

【Unanswered①(答えられないこと)】

 レイラの車でエマのマンションまで送ってもらった。

「レイラも上がって!」

 機嫌の直ったエマの言葉に、レイラはミラー越しにチラッと俺に目をやると、目を伏せて「今は忙しいから」と言って車を出した。

 レイラが何故、目を外したのか気になったが、それを考える暇はなかった。

 車を降りると直ぐにエマに荷物の半分を預けられ、今日あったことを色々話しかけられた。

 嫌ではない。

 むしろ好き。

 エマの醸し出す、楽しい雰囲気が、酔ってしまいそうなくらい俺は好きだ。

「今日は泊って行くでしょ」

「ああ」

「ヤッホー♪」

 エマが喜んでくれてキッチンに飛んでいく。

 窓の向こうに広がるヴァンセンヌの森の緑が美しい。

「お腹すいたでしょ、お料理作るから先にシャワー浴びていて」

 エマは服を脱いでエプロンを着てキッチンに立った。

「俺も手伝う」

「いいのよ、今日は暴漢に襲われて、ナトちゃんが居なかったら今ここにこうして立っていられなかったもの。それにしても10人をあっと言う間に片付けてしまうなんて、さすがにナトちゃんね」

「9人だ。1人はエマが倒しただろう」

「あれだってナトちゃんに助けてもらったから倒せたようなものよ」

「荷物を捨てれば、倒せただろう?」

「買ったばかりだもの、捨てられるわけないでしょ」

「……」

 これが携帯のメールだったら、汗のマークを入れたいところだ。


「じゃあ、お言葉に甘えてシャワーを頂く」

「バスローブは後で脱衣場に置いておくから」

「ありがとう」

 服を脱いでバスルームに入る。

 シャワーの栓を回すと、直ぐに温かいお湯が体を包んだ。

 体から滴り落ちるお湯を眺めながら思う。

 やはり、あのスポーツカーに乗っていた奴は、俺たちを襲った奴らの一味に違いない。

 でも何故何もしてこなかったのだろう。

 そして何故、銃を使わなかったのだろう。

 俺たちが倒した相手はプロではあるが、せいぜいジムのインストラクター程度。

 おそらく、奴に雇われたのだろう。

 警察に捕まる可能性があるから、奴は顔や身元を隠して雇ったに違いない。

 何のために……。

“試された”

 屹度そうに違いない。

 でも、何故……。

 そして、レイラの事も気になる。

 あの目は、何かを隠している眼だ。

 不意にバスルームのドアが開く。

「エマ!?」

「長いから来ちゃった」

「すまない」

「いいのよ。それにしても相変わらずピチピチね」

 俺の体を撫でながらエマが言う。

 まだ20歳だから肌の艶が良いのは、当たり前だ。

「そっちこそ」

 俺も負けずに石鹸を持った手でエマの体を撫でる。

「私は駄目よ。もう31だもの……」

「そんなことない。ほら撫でている肌が、眩しいくらい光って艶々だ。それに俺はこの優しくて柔らかい肌に触れていると、とても心が落ち着く」

「まあ、お上手。誰に教わったのかしら」


 実はこの言葉の一部分はザリバンとの闘いとそのあとの軍法会議(単独行動をした俺に敵前逃亡の疑いが掛けられた)も終わり、隊に帰ってみんなで呑んだ夜の誰もいないグラウンドでハンスに初めて抱かれたときに言われた言葉が入っていた。


“ナトー……いいのか?”


“ああ、戦場を駆け回って汚い体だが……”


“格闘練習以外で初めて触れるが、この優しくて柔らかい肌に触れていると、とても心が落ち着く”


 そう言ってハンスは俺にキスしてくれた。

 エマに言われて急にその時の事を思い出してしまい、カーっと頭に血が遡り熱くなる。

“なんてことだ、クラクラしてしまう”

 足元が、おぼつかなくなるのをエマの腕に捕まり堪えると、そのしなやかな手が頬に触れ俺の顔を自分の方に引き寄せる。

 もちろん俺は抵抗もしないで、力を抜く。

 重ねられる熱い唇を素直に受け入れ、いつの間にか自分から求めていた。

 いつもならエマの方から舌を絡めてくるはずなのに、今日はナカナカ入ってこない。

 じらされて待つことが我慢できずに、俺の方から舌を伸ばすと一旦エマが口を離して言った「まあ。甘えん坊さんだこと」と。

 俺はエマの言葉を封じるように、その口を自分の口で塞いだ。

 持っていた石鹸が床に落ちて、シャワーのお湯に流されて行く……。


 バスルームから出ると直ぐにお互いの体にボディクリームを塗り合い、濡れた髪をタオルで巻いて、お揃いのバスローブを着る。

 顔に化粧水を塗りながら顔のマッサージをするエマにチョッカイを出したり真似をしたり、逆にエマから逆襲に頬を引っ張られたりと、いつものことながら賑やか。

 学校なんかには通った事はないけれど、屹度ハイスクールやカレッジの研修旅行だったら女の子たちは“こんな風”なのだろうなって思い羨ましい。

 化粧水を塗り終わると、次に美容液を塗り、最後に保湿用のフェイスクリームで仕上げて終了。

 お互いが終わった所で軽く唇を合わせてリビングに戻ると南向きの窓はもう夕焼けに包まれ、ベランダから西を覗くと真っ赤な夕日を背景にしたエッフェル塔が小さく黒いシルエットになり、その畔を流れるセーヌ川が赤く染まっていた。

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