【Brawl in the parking lot①(駐車場で乱闘)】
「あらヤダ。荷物、どうしましょう……」
エマが言い終わると同時に、車の陰から覆面の男が襲ってきた。
俺たちに1人ずつ。
荷物を胸に抱えているから手は使えない。
覆面男の回し蹴りを避けた体勢から後ろ回し蹴りを繰り出し相手の“こめかみ”を捉えると、覆面の男は回転するように倒れて離れた。
奴は、とっさに回転することで受け身を取ったのだ。
只のチンピラじゃない。プロだ。
エマの方を見ると、こちらも同じ覆面をした男に襲われていた。
しかも買い物袋を両手で抱きかかえていて、手が使えないので圧されている。
状況は不利だ。
「買い物袋を捨てろ!」
「嫌よ!」
エマが嫌と言うのであれば、彼女は少々怪我をしたくらいでは買い物袋を離さないだろう。
体勢も悪く距離が離れていて相手にダメージは与えられないので、俺はエマを襲っている男の“ひかがみ”(膝の後ろ側のくぼんだ部分)にスライディングするように足を延ばして爪先で蹴りを入れた。
男は、まるで膝カックンを食らった様に上体を下げ、その顎にエマの前蹴りが炸裂して、そのまま倒れた。
2人の攻撃を撃退している最中に、2台の車のスライドドアが同時に開き3人ずつ、計6人の同じ覆面を被った男たちが現れた。
どいつもこいつも体格がいい。
「エマ、自分の荷物は自分で持っていて」
手に持っていたエマの荷物を投げて渡し、殴りかかって来た男の手首を掴み大きく弧を描くように投げ捨てると直ぐに倒れたその男を飛び越えて後ろに下がる。
次の男も間合いを詰めようとして、俺がしたように倒れた男を飛び越える。
だが俺は逆に間合いを詰め、膝を繰り出し着地寸前の男の溝落ちにヒットさせて倒す。
抱き着くように倒れ込んできたその頭を、上から引っ張る様に上から下へと回すと、男は1回転して倒れた。
視界の端にエマを狙って走り抜ける男が映る。
そして俺も前にも更に1人。
エマは両手に一杯の荷物を抱え、前もろくに見ることが出来ない状況。
“マズイ!”
目の前の男にサマーソルトキックをお見舞いするが、蹴りが上手く入りすぎて着地が浅くなりバランスを崩す。
すかさず次の男が、前のめりになった俺の上半身目掛けて蹴りを入れて来た。
バランスを崩しているので、かわすことが出来ない。
だから蹴り上げてくる足の爪先を両手で捕まえて捻り、その力を借りて状態を起こすと当時に突進して腕を首に巻き付けると、面白いように仰向けに倒れた。
「キャーッ!!」
しまった。
バランスを崩して余計な攻撃を受けている間に、エマが襲われてしまった。
“エマ!”
「何すんのよ!」
振り向くと、エマは後ろから羽交い絞めにされていた。
手に持った荷物が今にも落ちそう。
俺はエマから荷物を剥がし取る。
「あら、ナトちゃん気が利くわね」
「少しの間だけだぞ」
「Mercie♡(ありがとう)」
礼を言うなり強烈に後ろ向きに走るエマ。
羽交い絞めをしていた男がスモークガラスのスポーツカーにぶつかりボンネットに仰向けに倒れ、エマはそのまま後ろに1回転して羽交い絞めから逃れてスポーツカーの屋根の上に立つと、今度は前転して男の腹に肘鉄砲を見舞う。
ドヤ顔で俺を見るエマが両手を広げ、俺はその広げた手を目掛けて預かっていた荷物を投げる。
舞い上がった荷物と入れ替わりに、8人目の男と、最初に俺を襲った男の蹴りが降って来た。
息の合った2人の同時攻撃。
間断なく繰り出されるパンチとキック。
やっと1人の手首を掴み、投げの体勢に入ろうとすると、もう1人の攻撃が邪魔をする。
“なるほど。面白い……”
2人から攻撃されていると思うから気が散る。
だけど、攻撃は1人から受けていると考えて、もう1つは俺の邪魔をするためのアイテムだと考えを切り替えてみると面白くなってきた。
要するに1人へ攻撃に集中して、もう1人にはスキを見せてやれば必ずそのスキを狙ってくるはず。
試しに1度やってみると、少しだけ相手のパンチを繰り出すタイミングがずれた。
気が付いた証拠。
フェイクと気付かせないように、わざと撃たせてやる。
“いける!”
これでもう、この男の攻撃はコントロールできる。
これまでは息つく暇もない2人のコンビネーションを、一方的に受けるだけだったが今度は違う。
フェイクに引っかかった男の攻撃をコントロールすることで、まだ受け身の立場だが2人の攻撃するタイミングを少しずつずらしエアポケットが出来る瞬間を待つ。