【Thermit Reaction②(テルミット反応)】
「敵襲―!!」
煙草を吸いに廊下に出て来た男に、偶然見つかってしまった。
反撃したいが、この部屋は防火用の隔壁から離れていて、壁が薄いので廊下側の壁は敵の撃った銃弾が突き抜けて来る。
それでも反撃しないと攻め込まれてしまうので、天井板の石膏ボードを何枚も剥がし、それを束にして盾として使った。
「ハンス、ブラーム。暫く頼む!」
「OK!」
「気を付けろよ」
エマと俺は、剥がした天井裏に上り、それ伝いに前に進む。
もう直ぐ防火壁だと言う頃、ハンスから黒覆面の男(偽ミヤン)たちが屋上に上がった事を知らされた。
「屋上からヘリで逃げるつもりね」
「マズいな……」
直ぐにトーニの携帯へ電話した。
「トーニ、遅かったな」
「よお、ナトー。元気そうで何よりだ。もう直ぐ迎えに行くぜ」
「今どこまで開けた?」
「もう直ぐ2階から3階に上がる階段の2階側のシャッターが開く頃だ」
「よし、じゃあニルスたちを出したら上のシャッターは無視して、屋上に着陸しようとするヘリを止めてくれ。出来るか?!」
「がってん!お安い御用!」
「くれぐれも言っておくが、敵とは言え死傷者は出したくない」
「面倒臭せえな……」
「じゃあ頼んだぞ!」
「OK!」
通話しているうちに、ニルスたちを閉じ込めていた下側のシャッターの鍵が溶け、直ぐにフランソワたちが開けた。
「やあトーニ、さすがだな。その調子で上の扉も頼む」
「それが、そう言う訳にもいかねえ……」
「どうした?」
ナトーは軍曹で、分隊長だ。
だけどニルスは少尉で、小隊長。
ナトーの命令をニルスに従わせるのは順序が違うので、ニルスにナトーから依頼されたことを伝えた。
「よし、取り掛かろう!モンタナ、ハバロフとキースを連れて、捕虜を安全な所に避難させろ!フランソワたちは錆びた鉄粉を集めてくれ。俺とトーニとでアルミ粉を集める」
「集めた鉄粉は何所に置く?」
「――そうだなぁ~。アルミ処分棟で、どうだろう」
ニルスがトーニの顔を見て笑うと、トーニも笑った。
「フランソワ沢山集めて来いよ!」
「ああ、腰を抜かすほど持って来てやるぜ!」
二つ前のフロアに移動して天井を破った。
ここは廊下に壁のない休憩室だから、敵の侵攻を食い止めるのには最適な場所。
「ハンス、こっちは持ち場に着いた。ブラームと天井に上がって!」
「OK!」
「俺は2人が天井に上がるまでの間、ここで敵を止める。エマはこの千切れた電源コードを床まで垂らして、合図と共にそこのコンセントにプラグを差し込んでくれ」
「これって、下の階に来た奴らがしようとしていたことね」
「ああ、ブーメランだ。そのままお返ししてやる」
ハンスとブラームの弾幕が途切れたのを見計らって、勇気のある奴が廊下を突っ走って来た。
俺は通り抜けようとする奴の足を撃ち、次に手から離れた自動小銃のトリガーを撃ち、これを壊した。
「いいぞ!」
天井の隙間からハンスの声がしたのを合図に、拳銃を火災感知器の傍にかざして連射した。
直ぐに警報機が鳴り、スプリンクラーから水が天井から下に向けて勢いよく噴射される。
「エマ!」
「OK!」
エマがコンセントにプラグを差し込んだ途端、銃声は止み自動小銃が床に転がる音が幾つも聞こえた。
心臓に持病がない限り死ぬ程の電圧ではないが、一度体に電気が流れる恐怖を味わってしまうと殆どの人間はしばらくの間このトラウマから抜け出せない。
なにしろ自分の体と床が濡れている以外、色もなければ音もなく、匂いさえないのだからその恐怖心はジャングルでのゲリラ戦に近い。
いや、それ以上かも。




