【Counterattack②(逆襲)】
「どうします?」
「敵が撃って来ないと言う事は、このカメラの死角に入っているか、このカメラが壊れているかのどちらかね」
ブラームはエマに言われて、あらためて薄暗い天井にある監視カメラを見上げた。
黒いプラスチックカバーで覆われたドーム型カメラ。
ケースを開けない限り、どの方向を向いているのかは分からない。
「どうします?」
「トイレに行くよ」
「……」
少し呆れて立ち尽くしていたブラームだったが、行きかけたエマが戻って来て「アンタも行くのよ!」とトイレに手を引っ張って連れて行った。
通路の天井板が、ゆっくりと開き、そこからナトーが顔を出す。
“やはりビンゴだな”
誰も居ないことを確認して、通路に降りる。
ドアには、思った通り爆弾が仕掛けられていた。
不用意にドアを開けた途端、爆発する仕組み。
丁寧に爆弾を取り外し、ハンスに声を掛ける。
「やはり爆弾か?」
「ああ、奴らは味方の命さえ、どうでもいいらしいな」
「どこが平和団体なんだ……。ところで、どうして防火扉が閉まっている?」
「さあ?エマたちが入って来るのを止めるためなのか、それとも時間稼ぎ……しっ!誰かいる」
人の気配を感じて、話を止める。
そーっと気配のする部屋に近付くと、ゆっくりと静かにドアノブが回り出したかと思うと、いきなり背の高い黒人が飛び出してきた。
“!”
暗闇でも相手の正体は一瞬にして分かったがウォーミングアップを兼ねて飛び出してきた男の股間を前転してすり抜けて、振り向きざまにその男の後ろにいた奴が構えていた拳銃を足で払い飛ばす。
股間を抜かれた男が直ぐに後ろ回し蹴りを放つ。
身を低くして避けようとしたが男は回し蹴りから急に踵落としの体勢に入ったので、そのままもう一度、男の股間を前転ですりぬけてブラームの正面に立った。
「軍曹!!」
「ブラーム!エマ!助けに来てくれたのか」
「しかし、この暗闇で良く気が付きましたね。いったいいつから気が付きました?」
「切れのいいキックが飛んで来たからな」
ブラームの場合は手の一部が見えた瞬間に分かったし、エマに関しては“居る”と言う雰囲気だけで分かったが、切れのいいキックが飛んで来たので分かったと応えておいた。
その方が男は何でも上手になる。
「分かっていたなら、銃を蹴らないで頂戴。暴発したら大変よ」
「ほらよっ」
俺が蹴り飛ばしたエマの銃は、予定通りハンスの手元に飛び、それを今ハンスがエマに投げて返した。
「あらっ、セーフティーレバーが掛かっている。ハンスがしたの?」
「俺は受け取っただけさ」
「じゃあ、ナトちゃんが蹴った時に……」
「まあ、そう言う事」
少し照れながら笑うと、エマから「アンタ、中国雑技団に入りなさい」と言われた。
「あと10分か、そろそろ動くか……おい、そこの5人。3階へ降りてナトーを屋上まで連れて来い」
「ハンス大尉は、どうしますか?」
「射殺しろ」
本部からの指令は、ナトーの確保。
ハンスなど、どうでもいい。
「これを持って行け」
渡したのはゴム長靴とゴム手袋、それに高圧アダプターの付いた千切れた電気コード。
「これは?」
「いいか、ナトーを何故、あの部屋に入れたか分かるか?」
「いえ」
「本部からナトー軍曹を確保するように指示が来てから直ぐに、監禁場所を考えた。あの部屋は元々薬品庫で、スプリンクラーの配管経路が他と異なっている。これから3分後に遠隔操作で、あの部屋のスプリンクラーを作動させ水浸しにする。お前たちは扉に着いた爆発物を外した後、鉄製の扉の隙間からその千切れたコードを射しこんで通路にあるコンセントタップにコードを射し込め。そうすれば、ずぶ濡れの奴らは感電したショックで気絶しているだろう」
「もし、彼等が部屋から脱出していたとしたら」
「あり得ん。爆弾は中からでは解除できない。それよりも、ナトーを担ぎ上げる時にはコードを抜いておけよ。そうしないとお前たちまで感電する」
偽ミヤンは、言い終わると背広の内ポケットから葉巻を取り出して火を付けた。




