【Natow gets caught.②(ナトー捕まる)】
遅れて来たキースがバイクの後ろにレイラを乗せてやって来た。
「さあ、これで準備は整ったわ。行くわよ」
「よーし、テメーら森の中に踏み込むぞ!」
「あー、そっちじゃないわ」
「そっちじゃないって?」
「林道から行くわよ」
「でも、林道には監視カメラが仕掛けられてあるって……」
「いいの、いいの、気にしないで。その代り皆は荷台に乗って。あっ、キースはそのままバイクでね」
「……はい」
「あと、レイラとメントスはハンスの車で待機、いいわね」
「この格好で?」
下着姿のメントスが顔を赤らめて不服そうに言った。
「いい、襲っちゃだめだからね。それから前を膨らませるのもなしよ」
「まさか!」
メントスの言葉に、皆が笑う。
「あと、荷台に乗る貴方たちは、見つからないように伏せて乗ってね。レイラ、トーニが来たら状況を教えてあげて合流よ」
「OK!」
言い終わると、エマは運転席に乗り、キースを先頭に出発した。
長い木の枝に吊るした石を持って先行するジェイソンが、その石を草むらの上で揺らしカサカサと音を立てながら進む。
後ろからイヤフォンでラジオを聞きながら、ゆっくりと付いて行くフランソワ。
横に居るボッシュが聞く。
「兄貴、これじゃあマイクを発見する前に、マイクに音を拾われて捕まっちまうんじゃ……」
「バカかお前、マイクを使っていたのは1940年台の話だろうが、授業中居眠りしているからお前はいつまで経っても馬鹿なんだ。いまはFMの周波数で音が飛ばせられる時代だ。マイクのコードが有ったらナトーや隊長でなくても、俺だって敵に発見されたことに気が付くぜ――ちょっと待て」
フランソワが口を塞ぐように指を1本立て、鳥の鳴き声を真似てジェイソンに合図を送る。
振り向いたジェイソンに手話で、その場に留まり音だけを出し続けるように指示した。
持っていたラジオを上下左右にゆっくりと振り、ボッシュの口からガムを取り上げると、音を立てないようにある方向に進んで行く。
「またCブロック、今度は14番で集音機に反応がありました」
「奴らの仲間か?」
「いえ……どうやら小動物の様です」
「小動物?貸せ」
上官がヘッドフォンを取り上げると、カサカサカサカサと言う細かく小さな音だけが聞こえた。
「こりゃあイタチか何かだな」
「その様です。……聞こえなくなりました」
「まったく、脅かしやがって」
集音機を見つけたフランソワが、そのマイクの部分をガムで塞いだ。
「ジェイソン、もういいぞ」
「一体何があったんです?」
2人が聞くと、フランソワは得意そうに、敵の集音機を指さした。
「奴らは、この機械で音を拾っていた」
「でも、コードが付いていねえ」
「この手のタイプは、FMの周波数を利用して音を送るんだ。電源は電池でも数日は持つ」
「どうやって見つけたんです?」
「FMの周波数で音を飛ばすって事は、その周波数にあわせばこのラジオにも拾った音は飛んでくる。そしてアンテナの感度がいい方向に、つまり音が良く聞こえる方向に、発信機が有るって事よ」
「さすが兄貴」
「さあ、エマたちに報告して先に進むぞ。もう1台あるかも知れねえから、今度はボッシュが変わってやれ」
「了解!」
ジェイソンがボッシュに、長い木の枝を渡した。
「了解。皆聞いたわね。ナトちゃんとハンスが捕まった。今フランソワたちは敵の警戒線を無事突破したわ。私たちも急ぐわよ」
しばらく林道を走ると直ぐに左側に壊れた白のライトバンが放置されているのが見えた。
その奥の細い道が敵のアジトに繋がる。
ライトバンはまるで道路脇のフェンスに突っ込むように放置されていて、そのフェンスの上には3重にワイヤーが張られていた。
このワイヤーには屹度電流が流れているに違いない。
つまりライトバンを避けて、このフェンスを越えようとするとワイヤーに触れ、感知される。
おそらくこのライトバンにも同じような仕掛けが施されているに違いない。
つまり敵に感知されないように中に入るには、この仕掛けと車のモニターのどちらかを無力化するしかない。
そして、どちらを無力化しても、直ぐに敵に知れてしまう。
「あー、キース、もうちょっと先。そう、そこにオートバイを止めて。いい、何があっても私に調子を合わせるのよ。いいわね」
「了解」
「ニルスたちは私が合図するまで待機していて」
「合図があったら?」
「堂々と、徒歩で正面から行っていいよ」
「了解」
「じゃあ、石鹸大作戦の開始よ」
インカムで連絡を取り合った後、エマは車を降りてキースにこっちに来るように合図を送る。
キースがヘルメットを取り、エマの方に近付く。
お互いに近付き合ったあと、エマは急にキースの首に腕を回し唇を押し付けた。
驚いたキースが一瞬身を引こうとするのを、エマは強く抱きしめる事で止め、耳元でコッソリ呟いた「私を彼女だと思って」と。
「でも……」まだ躊躇っているキースのTシャツを、捲り上げて脱がす。
「逞しいのね」
「き、鍛えていますから」
「あら、こっちはどうかしら……ウフッ♡」
エマの手が滑るようにキースの体をつたう様に下に這わせ、股間を捕らえる。
「おい、カップルが……」
カメラのモニターを監視していた係りの者が仲間を呼ぶと、セキュリティー室の係員がモニターの前に集まった。
「おいおい、お盛んなことで」
モニターに映し出された映像は、抱き合うキースとエマ。
「この女、エロい格好をしているな」
「いい脚しているぜ」
「前は、どうなんだ?」
「こ、こら。お前たち、俺にも見せろ!」
上官も混じって、皆がモニターに映る2人の姿に釘付けになる。
「いい、私をライトバンに押し付けて、カメラが何所に有るか探るのよ」
エマが耳元で囁き、キースがエマの体をライトバンに押し付ける。
「ちょっとアンタ、相撲じゃないのよ。もっと私の体を触りなさい」
「でも……」
「でもじゃないの。息子さんは正直なのに、意外に意気地がないのね」
「バカにするな」
キースの手がエマの服の下から胸を捉える。
「その調子よ」




