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Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)  作者: 湖灯
★★★Open Sesame(物語の始まり)★★★
3/53

【At the department store①(デパートで……)】

 今日は8区にある百貨店ギャラリー・ラファイエットでショッピング。

 パリでも有数のファッションスポットで、グルメも堪能できる。

 場所は、ザリバンが仕掛けたパリでの報復テロの際に、非常線を張ったオーベル駅の直ぐ傍で他の部隊が警戒に当たったオペラ座の裏。

「珍しいわね、ナトちゃんが図書館じゃなくファッション系だなんて」

「お目当ては日本茶フェアーで、ファッションは、おまけだ」

「おまけ、ねえ」

 環状線を快適に走りながら、エマが俺の言葉を復唱して微笑む。

「何がおかしい」

「だって、少し前なら嫌がっていたでしょ」

「なにを?」

「洋服を買ったりする事」

「そ、そうか……」

 確かに戦死したミヤンの家族を見舞いに行くときも分からなくてエマに選んでもらったし、それ以外でも自ら進んで戦場に出ることはあっても、自ら進んで洋服をみに行くようなことは今まで無かった。

 今ではもう胸が合わなくなってしまった青いワンピースはサオリに買ってもらったものだし、グレーのストライプの入ったドレススーツは入隊祝いにハンスが買ってくれたもの。

 そしてその他の服もエマやユリアと一緒に買ったもの。

「変わったよね。何があった?」

「ヤザが殺したと思っていたサオリが生きていた」

「それは知っているわ」

「なら、それでいい」

 変わったと言われるのが嫌だったので、そこで話を打ち切った。


 しばらくすると、1893年創業のヨーロッパ大陸最大規模を誇る老舗デパートが見えて来た。紳士服・食品館の1階(1階を0階としているので実質は2階)にある駐車場に車を止め、3階の催物会場でお茶を買いそのままモガドール通りを越える空中廊下を渡ってレディース館に入る。

 ここに入った者を出迎えるのは、巨大な円筒形の吹き抜け。

 吹き抜けの周りをイヴォアール(色番号DIC-F160)で塗られた通路と店舗はライトに照らされて、黄金の様に輝きまるでどこかの有名な宮殿かオペラハウスのよう。

 そして見上げた先の天井には遥かに高く、美しいガラスと鉄骨の丸天井クーポールが見上げたものの眼だけではなく心まで奪う様。

「綺麗!」

 思わず口に出し、繋いでいたエマの手を握る力が強くなってしまう。

「凄いね!」

 自然にエマの顔を見上げて笑う。

「初めてだったの?」

「だって、エマとじゃなければこんな所来られないから」

「あら、彼氏に連れて行ってもらったら?」

「彼氏なんて居ない」

「そぉ~かぁなぁ~……」

 エマがからかう様に、俺の顔を覗き込む。

「あ、当たり前だろ!部隊内では俺は男として扱われているし、料理を殆ど作ったことがないから良い奥さんになれやしないかも……。いや、に日本料理なら少しは作れるが、相手の国の郷土料理なんて作り方も知らない」

「大丈夫よ、ソーセージの作り方って意外に簡単なんだから」

「そ、そうなのか……って、なんでソーセージなんだよ!」

「だって、いくらナトちゃんが軍人でも、彼氏候補生は部隊だけじゃなく、頻繁に通っている図書館でも出会いはあるでしょう?それなのに部隊限定だって言うから」

「俺はそんなこと、一言も言っていない!」

「強く否定すると言うのは、肯定しているようなものよ」

「勝手にしろ!」

 他愛もない会話をしながら、広い店内に沢山あるブティックを回った。


 華やかなブティックを何軒回っても、ナカナカ買う勇気が出てこなかった。

 お店の人がどんなに似合うと言って褒めてくれても、エマに薦められても結局気が進まなかった。

 欲しいものがなかったわけではない。

 特にmaje(マージュ)のワンピースと、Pablo(パブロ) のリボンタイブラウスは、かなり迷った。

 ガーリッシュなワンピースにストローハットを被り、青々とした天気の下でピクニックバスケットを手に持ち、豊かな自然に囲まれた湖畔のデート。

 大人っぽくて可愛いリボンタイブラウスにスキニーパンツを履いてライブハウスやショッピングを楽しむ街中でのデート。

 趣の異なるふたつの服。

 エマに相談したら、普通の少女として、まともに過ごしていなことを気の毒に思われるかも知れないし背伸びしていると笑われるかも知れない。

 それよりも、それを選んで迷っている背景に居る男性に気付かれる事が怖かったのかも知れない。

「ちょっとトイレ行ってくる」

 買い物も一段落し、屋上のテラスで遅い昼食でも摂ろうかと話したあと、エマがトイレに行った。

 俺は行かないから荷物持ってやると言うのに、「もう一度合わせてみたいから、持ってゆく」と言って両手いっぱいに持った手提げ袋を持って行った。


 1人になると、何故か急に周りが気になる。

 俺たちと同じような若い女性連れが多いが、中にはカップルもいて、女の方が服を合わせては彼氏に見せている。

 俺が迷っていても買うことが出来ないのは屹度このせい。

 いくら自分に似合ったとしても、それを多くの人が褒めてくれたとしても、それを着て一緒に横に並んでくれる人がそれを気に入ってくれなければ意味がない。

 最終的な決定権を何故かここに居ない――そして、こんな場所に来ることもないハンスに委ねている……。

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