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Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)  作者: 湖灯
★★★Royal Soap Great Operation(石鹸大作戦)★★★
25/53

【Trackers and fugitives③(追跡者と逃亡者)】

 シトロエン2CVの加速は鈍く、レイラが思いっきりアクセルを踏んでもトレーラーに追いつくのが精一杯。

 エンジン音は凄まじいが、走るトラックを抜く程のスピードは出ない。

 そこへ後方から急激に近づいてくるバイクのエンジン音が聞こえて振り向くと、もうキースが真後ろ迄来ていた。

「任せて下さい!」

 オフロード用のフルフェイス越しに聞こえたと思う間もなく、キースのバイクが加速して、あっと言う間にトレーラーを抜いて行く。

「レイラ、車間を開けて加速準備!」

「車間を開けて、加速?今度は一体何?」

 レイラが車間を開けると直ぐにまたトレーラーの低いクラクションが鳴った。

「反対車線に出て、思いっきり加速して」

「でも、前が見えない!」

「キースを信じて!」

 反対車線に出ると、予想通り対向車はいなかった。


 ブレーキを掛けて減速しているトレーラーの横を通り抜けると、道路のど真ん中にオフロードバイクとキースが倒れているのが見えた。

「ヤラレタの?!」

 エマが驚いて後ろを向いて聞く。

「キースは元プロのオフロードライダーだ。スタントは、お手のもの」

「ワザと倒れて道路を塞いで、トレーラーを止めたのね」

「ああ、屹度そうだろう」

「日本だったら、迷惑運転で免許取り消しね」

「2度もその被害に遭ったトレーラーの運転手には申し訳ないな」

「いいよ、ナンバーは覚えたから、あとでリズに謝らせに行くわ」

「なんでリズに?」

「だってDGSEは対外国。リズのDGSIは国内治安総局だもの、国内の事はリズに任せるのが筋でしょ」

「それなのに、なんでDGSEが動いている」

「あら、親友のピンチだから当然でしょ」


「うまくトーニたちを騙して引き込んだつもりだろうけど、俺は騙されない。君たちは最初から、こうなる事を予想して動いていた……そうだろう?」

「あらっ、相変わらず勘が良いのね」

 トレーラーの前に出て暫く走っていると、意外に近い距離に敵のベンツが見えた。

「あーら、また前に詰まっちゃったのかしら」

 呑気そうに言うエマの言葉が気になった。

「……レイラ!車を反対車線に落とせ!」

「えっ?!落とすって??」

「早く!!」

「もう、知らない!」

 半分鳴き声のレイラが急ハンドルを切る。

 フロントタイヤが反対車線の路肩から外れ車が傾いた時、タタタと言う自動小銃の連続発射音と車の屋根に銃弾の当たる音が聞こえた。

 だが車は直ぐ道路脇から、下の畑に落ち、何度かバウンドして止まる。

 頭上をヒュッ、ヒュッっと銃弾の風切り音が通り過ぎた。

「大丈夫か!?」

「なんとかね」

「なんとかじゃないわよぉ……」

 銃撃に合い今までキャーキャー言っていたエマがエージェントらしく不敵に微笑むのとは対照的に、今までわりと冷静だったレイラが潰れて跳ね上がったボンネットを恨めしく見ながらぼやいた。


「よく分かったわね」

 ベレッタPX4 Stormを手にしたエマがニッコリ笑う。

「やっと、いつものエマに戻ったな」

「今回は私も参加させてもらうわよ」

 車を壊されて今までおとなしかったレイラが、すっかりザリバンのリビア方面軍副指令官だった頃の風格を戻していた。

 手に持つのは光沢を抑えた、鈍い金色のイジェメック MP-443 Grach 。

「じゃあ俺も」

 今まで、ポケットに仕舞ったままにしていたワルサーP22 Targetを手に持った。

「あら、FR‐F1は使わないの?」

「この距離なら拳銃で充分だろう。長物のFR‐F1はボルトアクションだから、この距離で自動小銃を相手にするには不利だけど使ってみる?」

「でも、ここからだと拳銃の射撃距離にはちょっと遠いよ」


「私、使ってみる」

 レイラが銃を取り、伏せていた姿勢から顔を上げてライフルを構えるが、撃つ前に敵に見つかり自動小銃に威嚇され慌てて顔を引っ込める。

「駄目、狙いをつける前に撃たれるわ」

「敵は1人、それとも2人?」

「御免。ライフルを構えていて、視界が悪くて、それどころでは……ホント、御免」

「大丈夫よ。じゃあ今度は私が拳銃で確認して見るね」

 エマが顔を上げてベレッタPX4を構えて撃つ。

 パンパンパン。

 タタタタタ。

 顔を上げて3発発射したところで、自動小銃の反撃に遭い直ぐ顔を引っ込めた。

「敵は3人。1人は正面にある木の陰、距離は約20って所かしら左利きよ。もう1人は車の後部と、その後ろの地面に伏せていて共に右利き、距離は40ほどあるわ。3人共、手に持っているのはM4タイプの自動小銃」

「さすが、エージェントね、少佐」

「まあね……でも、全然敵に当てられる気がしない」


 一瞬で状況を掴んだ事をレイラに褒められて喜んだエマだったが、エマのように経験豊富なエージェントでも、この距離で自動小銃との撃ち合いは厳しいと感じている様だった。

「じゃあ二人共、土手沿いにもう少し前に移動して距離を詰めろ」

「ナトちゃんは?」

「俺は、ここから先ず正面の木に隠れている奴を狙う。配置に着いても俺が合図するまで撃つのは待ってくれ」

「了解」

 2人が屈むように身を縮めて向こうに行く。


 こっちの装備が拳銃とライフルと言う事が分かった以上、敵から距離を詰めてくることは無いだろう。

 敵にとってこの距離と配置は有利だが、2人共拳銃の有効射程距離にいる事には違いがなく、それを忘れてはならない。

 仰向けに寝転び、空を見上げた。

 のどかに雲が流れていて、反対車線にある樹に翼を休めるつもりなのか滑空してきた鳥が飛んできた。

 遠くから車が近づいてくる音。

 手前から奥の、もう1人が隠れている車の方に向かって来る車。

 車が真横に差し掛かった時、鳥が鳴き声を上げて羽ばたいた。

 俺は仰向けになっていた体を回転させて起き上がり、通り過ぎるトラックのBOXの上に見えている幹の右端に照準を合わせ、それを垂直に下に降ろしていく。

 1発目は未だ幹の全体が見える前、幹の左端がようやく見えたところで発射した。

 2発目は体を左に倒しながら、幹の右側に見えた敵を確認して撃った。

 丁度1発目が銃を支えていた右手に当たり、崩した姿勢の左肩を狙って当てた。

 身を伏せた直後、道路脇に無数の砂埃が上がる。

 車の陰に隠れている敵の自動小銃が俺を狙っていた。

 だが俺は狙いを付けられる前に、既に安全な場所に身を隠した。

 見上げると、さっき飛び立った鳥が、青空の中を悠々と飛んでいた。

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