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Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)  作者: 湖灯
★★★Royal Soap Great Operation(石鹸大作戦)★★★
24/53

【Trackers and fugitives②(追跡者と逃亡者)】

「レイラもこの作戦に?」

「厳密には違う作戦なんだけど、今それは言えないの」

 後ろ座席に乗った俺からでも、ハッキリとレイラがエマを横目で見るのが分かった。

 やはりエマは何かを隠している。

「結構走るな」

「高速道路じゃないからね。一般道を走るのには、このくらいでも充分よ」

 パリの市街地を抜け、田園地帯を走る片側1車線の一本道。

 奴らの車が見えて来た。


 どうやら前を大型トレーラーに阻まれて抜けないらしい。

 徐々に差を詰めていると、最後尾のワンボックスカーの後部ドアが開く。

「来るわよ!」

「ナトちゃん、座席の後ろにF1を用意してあるわ。スコープは外してあるから付けてね」

 後ろを見ると木目の鮮やかなFR-F1狙撃銃が置いてあった。

 後部座席から立ち上がりオープントップの上から銃を構える。

 スコープを調整する暇はないから、装着せずにそのまま使う。

 この道で自動小銃を撃たれたら、避けられないから敵が撃つ前に撃たなければならない。


 パーン。

 座った姿勢から自動小銃を構えていた奴の肩に命中し、奴が銃を落とす。


 肩を貫通した弾が、後部座席から窮屈な格好で射撃準備をしていた奴の膝に当たったのだろう、そいつも一緒に倒れた。

 レバーを引いて空薬きょうを排出し、次弾を装填すると次は後輪を狙った。

 タイヤがパンクして、ふら付き出した車が徐々にスピードを落とし近付いて来る。

 助手席の男が拳銃を構えようとしたので、こいつの肩にも7.5mm弾をお見舞いした。

 やがてワンボックスカーは、ふら付きが大きくなり路肩にタイヤを落とし収穫を終えていた小麦畑に突っ込んだ。


 視界が開けると大型トレーラーの後ろにはベンツが1台いるだけだった。

 どうやら黒のスポーツカーと、2台のベンツは先に行くことに成功したらしい。

 ワンボックスカーから、インカムで狙撃された事が伝えられたらしく車体を大きく左右に振っている。

 銃を降ろし、座席に座り、レイラに車間を開けるように伝えた。

「撃たないの?」

「ああ、弾の無駄だ。それより危険回避の準備をしておいた方が良さそうだぞ」

「危険?」

「撃ってくるの?」

「あれだけ車を揺らしていたら撃てっこないわ」

「じゃあ……」


 3人で話しているときに、激しいクラクションと共にバーンと言う衝突音が聞こえた。

 車体を左右に振っていたベンツの後部が、対向車線の大型トラックと接触したのだ。

 後部を弾かれた車が横向きになり、回転を始める。

「キャーッ!!」

 エマが悲鳴を上げたが、無理もない。

 弾かれた車は、もう目の前まで迫っている。

 必死にバランスを立て直そうとするドライバーと、シートに背中を押し付け恐怖で目を見開いた助手席の男。

 2人の男と目が合った。

 助けを求める目……だが俺たちには、何も出来ない。

 人を殺めようとした罰が下されたと思って、諦めてもらうしかない。

「レイラ、アクセルを踏め!!」

「えっ、ハ、ハイ!」

 回転する車は、いつまでも回っていてはくれない。

 ある所でグリップが回復し、予想も出来ない方向に飛び出す。

 ブレーキを掛ければ、それだけバランスを失った車と長い時間一緒にいるだけ。

 相手が規則正しく回転しているうちに、すり抜けられるタイミングを見計らって前に進んだ方が安全に切り抜けられる可能性は高いだろう。


「ひいぃぃぃ~っ!!」

 近づいてくる車にエマが、また悲鳴を上げ、レイラがハンドルを切ろうとした。

「ハンドルは真直ぐ!回避するな!!」

 エマの背筋が一瞬ビクンと揺れ、顔を伏せ、そのまま突っ込む。

 カンッ!!

 後輪のカバーに相手の車が軽く触れたので振り返るとスピンから回復しないまま、まるでのた打ち回る生き物のようにフロントノーズを高く上げ、激しく土埃を上げながら小麦畑に呑み込まれて行った。


「レイラ、ブレーキ!!」

 アクセルを踏んだせいでトレーラーとの距離が詰まっていた。

 もしここで、トレーラーに急ブレーキを掛けられたら、俺たちの車はシャーシの下に潜り込んでしまう。

 華奢な作りの2CVなら生きては戻れないだろう。

 読み通りトレーラーが急ブレーキを掛けた。

 大型車特有の図太い音色のクラクションが鳴り響く。

 間一髪俺たちの車は止まる事が出来た。

「このトレーラーも敵なの?!」

「まさか。おそらくトレーラーの前を走っていた車が、急ブレーキを踏んだのだろう」

「なんで、そんなことをするの?」

「派手に吹っ飛んだ車に目が釘付けになるか、あるいは、ぶつかると思って目を瞑っている隙を付いたのだろう。しかし、エマどうした?自分では無茶して飛ばす癖に、あんなに怖がって」


「わたし、人の運転って信用できないの……」

「まあ、酷い!」

 涙を拭うエマに、レイラが怒って、そして笑った。

 一旦車を降りて、当たった後輪の様子を確認した。

 カバーが少し凹んでいるだけで、走行性能には何も支障はない。

「あーっ、折角ここまで無傷だったのにぃ~」

 それでもレイラは嘆いていた。

「なによ、その程度のちっちゃな傷くらいで。私のプジョーなんか銃で撃たれてエンジンに穴が開いているのよ!」

「廃車だな……すまない」

「いいの、いいの。車はまた買えるけれど、ナトちゃんの命には代えられないもの」

「すまない……」

「さあ、あと3台よ。急ぎましょう。乗って!」

「OK!」

 レイラが運転席に飛び込みエンジンを掛けた。

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