【Trackers and fugitives①(追跡者と逃亡者)】
追って来る足音は4人。
ここでも計算が合わない。
4台の車からは、ドアの開く音が8つ聞こえた。
だから追手は8人だと思っていた。
“どこかで分かれたのか?”
まあいい、4人なら何とかなる。
狭い隙間を登って屋根越しに逃げようと登りかけた足を止め、奴らを待つことにした。
足音が行き止まりの路地に入って来る。
「いない!」
「確かにここに入った所は見た」
「建物の中に逃げ込んだのか?!」
「踏み込め!」
ガサッ。
「どこだ!?」
「はは~ん、そこの狭い隙間に隠れていやがる様だぜ」
「見ろよ。段ボール板があるぜ」
「段ボールの陰に隠れているって訳か。無駄な事を」
パン、パン、パーン。
銃弾が3発撃ち込まれ、静かな路地に乾いた銃声が響いた。
「おい、お前とお前。見てこい」
「チッ。まったく狭い所に隠れやがって……」
先頭の男が段ボールを捲るが、そこには何もない。
あるのは外壁に撃ち込まれた銃痕だけ。
「なにもない、ぜっ」
先頭の男が後ろの男にそう告げようと振り返った時、俺は隙間を登っていた手を離し2人の間を目掛けて落ちた。
落ちるついでに後ろに居る男には肘を落とし、着地して段ボールを捲った男に蹴りを入れ、気を失って前のめりに倒れ込もうとする後ろの男を担いだまま通りに向かってダッシュした。
「わあーっ!」
通りから覗き込んでいた男が叫んだが、そのまま気絶した男を押し付けて倒し、驚いて拳銃を向けようとした外で見張っていた男の手を抑え、頭突きをお見舞いした。
気絶した男に押し倒された男が拳銃を持ち上げようとしたので、それを足で蹴り胸倉を掴み聞いた。
「誰に頼まれた?お前らを雇ったのは何の組織だ?お前たちは何者だ?」
「しっ、知らねえ。俺は只のヤクザ者で、背の高い丸坊主の男にこの仕事を紹介されただけだ。こいつらとも会うのは初めてだ……」
「本気で俺を殺すつもりだったのか」
「まっ、まさか……こんだけ拳銃を持っていりゃあ、誰かが撃って、誰かが殺す。俺が殺さなくてもアンタが死ねば全員に成功報酬のボーナスが支払われる」
情報はここまでだろう。
話を聞き終わると可哀そうだけど、奴の腹に膝を落とし気絶してもらい拳銃を回収して来た道を戻った。
”集団心理”
さっきの男が自分はヤクザ者だと言っていたが、そうそう人なんて殺せるものじゃない。
ただ奴が言うように多くの人間が拳銃を与えられ集まれば、自分が殺さなくても誰かが殺してくれると、罪悪感も薄れ凶行に及ぶ事が出来てしまう。
街を破壊するデモ隊の心理と同じ。1人なら誰もそんなことはしない。
車を置いた通りまで戻ると、そこにはトーニたちが居た。
「ぃようナトー。銃を持ったお子ちゃまは、片付けた様だな」
「お前たち、どうしてここに!?」
「どうしたも、こうしたもねえぜ。まったく冷てえなあ。エマに聞いたぜ、先週の事」
「じゃあ、お前たちが」
「そう。追手のうち4台はモンタナとフランソワ、それにジェイソンとボッシュで片付けた」
「それから、ここに倒れている4人は私とブラーム君、それにキース君とハバロフ君で片付けたよ」
車の中から出て来たエマが言った。
そして向こうに止まっているワンボックスカーからニルスとメントスが顔を出して手を振っていた。
「エマ!」
嬉しくて思わず抱きついた。
「あれっ、言い出しっぺは俺様なんですが……」と、トーニが、ぼやいた。
「しかし、どうして俺を追えた?ミラーには敵以外の車の追跡は確認できなかったのだが」
「それは僕が君の車に付けておいた発信機の情報をもとに、皆に指示を出していたからだよ。つまり近付く必要が無かった。と、言う訳」
「さすがだな、伊達に抗議中にドローンを飛ばしている奴は違う」
「知っていたのか?!」
「まあな。でも、その理由は分からなかったが、今思えば見張っていてくれていたんだな。ありがとう」
「まっ、まあな……」
ニルスが照れて頭を掻いた。
その時、突然スピードを出した車の近付く音が聞こえた。
「車の陰に隠れろ!!」
俺の合図で皆一斉に車の陰に隠れた。
タタタタタ――。
複数の自動小銃の発射音と共に、タイヤの破裂音とガラスの破片が散らばる。
車が通り過ぎた後、顔を上げると、あの黒のスポーツカーを先頭に3台のベンツと最後尾にワンボックスカーが走り去って行くのが見えた。
「逃がすな!追うぞ!!」
「OK!」
エマが車に飛び乗ったがエンジンが掛からない。
「駄目。エンジンをヤラレタみたい」
「防弾仕様じゃなかったのか?」
「防弾は窓とドアだけよ。プジョーだと、これ以上は無理」
「ワンボックスは!?」
「駄目です、タイヤをヤラレテいます」
ハバロフが、そう言った。
エマが携帯を取る。
「レイラ、どこに居る?!」
「もう直ぐ着きます」
「ブラーム、発信機を外してレイラの車に付ける準備をしてくれ!」
ニルスの言葉に、トーニが慌てて俺の乗って来た車に向かう。
レイラのシトロエン2CVが直ぐに着て、エマと俺が乗り込む。
急発進直前にブラームが発信機を投げてよこした。
「そんなポンコツで追えるのか!?」
トーニが余計な事を言った。
「バカにしないで頂戴。これでも70年型の602㏄32馬力よ!」
シトロエンが猛烈な音を出して発信する。
「たった32馬力で300馬力を追うのか……」
「トーニさん、タイヤ交換手伝って!」
「俺は一足先に行く!」
ワンボックスカーのハッチを開けキースがYZ250を降ろしエンジンを掛けると、雷のような音を立てて発進した。
「50馬力で追うのか……」
「トーニさん、ボーっとしていないで早く早く!」
「わりぃ、ブラーム代わってくれ。俺も追う!」
そう言うと、トーニは歩道の端に止めてあった愛用のベスパに飛び乗って発進した。
辺り一面が、濛々とした白煙に包まれる。
「たった6.5馬力で300馬力を追うのか……」




