【Launch Royal Soap!③(発動ロイヤルソープ)】
土曜日、俺は外に出る事にした。
もしも偽のミヤンが俺を付け狙っているとしたら、分かりやすいように火曜日に部隊の車を予約しておいた。
貸し出し用の車を登録するサイトは機密事項には当たらないので、セキュリティーの厳しい軍のサイトとは切り離されている。
敵の組織にハッキングの出来る奴がいれば、直ぐに調べはつくだろう。
もしいなくても、出入りを見張っていれば分る。
「おい、ナトー。お出かけか?」
「ああ」
「じゃあ、き、気を付けてな」
「ああ」
出がけにトーニに声を掛けられたが、何故か“どもり”が出ているのが気になった。
借りたシトロエンC3のエンジンをかけ、勢いよく車を出す。
先ずは出がけの狙撃を心配していたが、無事外へ出してくれた。
もっとも、部隊の目と鼻の先で狙撃をすれば、直ぐに周囲を兵隊に取り囲まれるからリスクが大きいと言う事だろうか。
道路に出て暫く走って直ぐにUターンをした。
忘れ物をしたわけじゃない。
こうすることで尾行している車がいれば分かりやすい。
すれ違う車の特徴を覚えておくと、三番目の交差点で信号待ちをしていると後ろに、すれ違ったはずの車が3台いた。
それにすれ違ってはいないが、ずっと後ろから付いて来ている車も。
交差点を右に曲がり大通りから外れて、また元の大通りに戻ると、6台の車がそのまま付いて来た。
間違いない。
追跡者だ。
スピードを上げると6台も同じようにスピードを上げた。
追手はこの6台の他に、大通りに駐車していた4台も加わり合計10台。
あの黒のスポーツカーは居ないが、どうも奴は10と言う数字が好きなようだ。
10台を引き連れて街中のドライブ。
街中では奴らも堂々と仕掛けてはこないだろうと思っていたら、先頭の車が追い越しを掛けて来た。
横に並ぶ前、バックミラーを見ると助手席の男が拳銃を構えている姿が映った。
“来た!”
咄嗟にハンドルを切り対向車の隙間を縫って交差点を曲がる。
ぶつかってしまうと、それでゲームセットだが、何とかすり抜ける事が出来た。
後ろでは激しくクラクションが鳴り、その後に衝突音がした。
“ふぅ”
バックミラーを覗くと、まだ奴らは付いて来ている。
あまり派手な事をして、これ以上市民を巻き込みたくはないが、奴らはどうやら俺の考えとは違うようだ。
直ぐに次の車が斜め後ろから迫って来た。
もうしばらく、脇道はない。
咄嗟にハンドルを切ると同時にブレーキを踏み、車を180度ターンさせアクセルを踏み倒す。
一瞬正対した敵の驚く顔が見えたが、直ぐに激しくタイヤスモークにより視界は掻き消された。
またハンドルを切り直し、車を進行方向へ向けると、後方で衝突音がした。
おそらく驚いて急ブレーキを掛けた車に、仲間の車が突っ込んだのだろう。
しかし今のアクションで、一旦スピードが落ちてしまい、次の車がすぐ斜め後ろに迫っていた。
急ハンドルを切りサイドブレーキを踏むと、車はバランスを失う。
左右にハンドルを切るが、タイヤのミューが利かなくなってまるで氷の上を滑っている感覚。
そこからアクセルを踏みスピードを合わせてやると、左右に触れていた車のケツが勢いよく回復する拍子に並ぼうとしていた敵の車のフロントに当たり、そのはずみで街灯にぶつかり自転車のオバサンが驚いていた。
ぶつかった車のエアバックが開いていないと言う事は、予めカーチェイスを予想して外しておいたのだろう。
早く街から出ないと大事になる。
敵の車に激しく当てた事で、後輪から煙が出だした。
エアバックが開かなかったのは不幸中の幸いだが、どうやら車の構造は映画やドラマの様なカーチェイスには耐えられないようだ。
直ぐに後輪の破裂音がして車体がビリビリと揺れる。
ハンドル操作で誤魔化すが、スピードも出せないし、もう急な回避行動は取れない。
“これまでか……”
車を捨てて、狭い路地に逃げ込む。
俺を追っていた車も次々に急停車し、ドアの開く音がする。
“4台!?”
走りながら辻褄が合わないことに気が付いた。
敵の車は、俺が交差点で無理やり曲がった時に1台と、さっき街灯に突っ込んだ1台は動けないはず。
エアバックを外しているのなら、さっき仲間同士ぶつかった2台には大した被害は出ていないはずだから、追手はまだ8台居るはず。
4台足りないのは何故だ。
パンパンと拳銃の発射音が響き、丁度曲がり終わった角のレンガに当たり、破片が転がる音がした。
拳銃を持った集団と素手で戦うつもりはないから、一応ワルサーP22は持って来たが、敵と言ってもどこかでスカウトされた元一般人相手に使いたくはない。
次の路地を曲がり、その先を曲がると不運な事に行き止まりだった。
横の建物と建物の間に、人ひとりが何とか通れそうな隙間があったが、それも途中に大きな段ボール板が置いてあるだけで、その先は増築されたのだろう外壁で塞がっていた。
建物の窓を破って中に入る事も考えはしたが、そうすると俺一人の命では済まなくなる恐れがあるので止めた。
“万事休す”
俺は狭い隙間に隠れることにした。




