【Launch Royal Soap!①(発動ロイヤルソープ)】
「アロ(フランス語でハローの事)!エマ、元気にしているか!?」
「まあ、トーニ!元気よ。どうしたの?」
「相変わらず、良い声だな。その声を聞くだけで殺風景な俺の心が、バラの好い香りで包まれちまうぜ」
「相変わらず、お上手ね。ところで何かご用?」
「いや、ナトーの事なんだけど、この前の休日に何かあったのかなぁ~って思っちゃっている訳なのよ」
「……」
「って、おいっ。何で黙る!?やっぱ何かあったのか?!」
「ナトちゃんから何か聞いたの?」
「いやぁ、聞き出そうとしたが、アイツは何も言わねえ。問題はいつも自分独りで背負いこむのがナトーの流儀だ。だからマリーローズにこうして掛けているんだ」
「マリーローズって、ひょっとして私の事?」
「ったりめ―だろうが。世の中広いと言っても気品と風格、それに優しさと可憐さを併せ持つのはエマしかいねえ。だから教えてくれよぉ~」
「んーっ……どうしようかなぁ~♪」
「ネスティ ロマンティカソープ 3種セット で、どうだ!」
「石鹸で私を釣るつもり?」
「いつまでも、その瑞々しい肌には、地中海の輝く太陽の元で作られたネスティ ロマンティカが似合うだろ?」
「好いとこついて来たわね。でも“いつまでも”って言うのは余計なお世話よ。じゃあ切るね」
「おっおい!ちょっと待った。じゃあケースで!」
「ブッブー。私、今使っているのがシャネルのココ・マドなのよ。イタリアお土産物なんかには釣られないわ」
「じゃあ、何だったらいい?いや、何でもいいから、言ってくれ」
「そうねぇ~、貰うならカタール・ロイヤルソープかな?」
「分かった!それで、手を打とう!」
「いいの??」
「ああ、いいともさ。エマが喜んでくれるなら、俺様も本望って所だぜ」
「私が教えたこと、ナトちゃんには内緒って約束、ちゃんと守れる?」
「ああ、ローマ法王に誓って」
「うふっ。嘘っぽーい」
誰も居ない夜の食堂に仲間を集めて緊急ミーティング。
エマから聞き出した情報は、ナトーが土曜と日曜に暴漢に襲われたことだった。
土曜日には、素手の10人。
日曜日には、鉄パイプなどを持った10人。
勿論ナトーは、そいつらを軽くブッ倒したのだが、エマが心配するのは敵がもし次に襲ってくるとしたらもっと強い武器を使ってくるのではないだろうかと言う事。つまり飛び道具。
相手が銃を持っていて、いつ何時襲ってくるか分からない。
しかも街中だった場合には、市民を巻き添えにする可能性だってある。
「なるほど。ナトーも、それが分かっているって事か……」
「相変わらず、問題を1人で背負いこむな……」
「まあそれが、ナトーがナトーらしい所なんだけどな」
「どんなに家計が苦しくとも、決して旦那様の前ではお金の苦労などしていない風に見せて、実は密かに内職やアルバイトをして、自分はロクにご飯を食べなくても旦那様には美味しい料理を振る舞う――あー、ナトーってこういう良い妻タイプだよなぁ」
「贅沢はしないし、真面目だし、責任感はあるし」
「顔もスタイルも抜群!」
「特にあの胸!軍服の時は、目立たないように細工しているみたいだけどよぉ。私服の時に走るとプルンプルン服の中で暴れて萌えるねぇ~~」
「――あ~抱いてみてぇ」
「まあ迂闊に抱きついたら、金的食らうこたあ間違いねえだろうぜ」
「……ところで、パリのテロの時もそうだったですが、どうしてナトー軍曹は心配事や問題を誰にも相談しようとしないのでしょう?」
「あのザリバンとの死闘の中でも、俺たちを守るために幾度も自ら死の危険が伴う行動をとってくれたのだから、仲間が嫌いって訳でもなさそうだし……」
「ああ、ナトーはいつでも仲間を大切に思っているのさ」
「なのに自分の時だけスタンドプレーって言うのが、合点がいかねえな」
「プライドが高すぎるって言う感じでもないしなっ」
「……」
一同が、答えに行き詰った時、それまで黙っていたブラームが、親を亡くしているからだと言った。
「ナトーは、物心がつくかつかない頃、義母を無くしているだろう。だから甘えた事が殆どないんじゃないか?」
「でもよお、義父は居るんだから。2人揃っていなくても片親が居れば甘やかせてくれるだろ。普通」
「ナトーの義父は確か今はザリバンの大幹部のヤザだから、甘やかせてなんか貰えるかよ!」
「子供を、伝説の狙撃兵として育て上げるくらいの義父だからな」
「Grim Reaper……」
集まった一同が感情の下り坂に差し掛かった時、トーニが明るく大声を出して皆を鼓舞する。
「DGSEのエマも協力してくれるから、明日の晩はエマを交えて作戦会議だぜ!」
「えっ、エマさん来るんですか?!」
「いや、来ねえ。電話会議に決まってんだろーが」
LéMATの、特にこの第4班はDGSEのエマ少佐との関りが深い。
それはナトーとエマが初めて出会ったリビアでの諜報活動で、すっかりナトーの能力と魅力に惚れ込んだエマと、最初は少し苦手だったナトーもエマの表裏ない明るさと面倒見の良さから姉のように慕う様になったことが部隊にも波及した。
だから隊内にはエマのファンも多い。
「作戦名を考えなくっちゃな」
「相変わらずモンタナ、オメーは呑気な野郎だぜ。作戦名はエマと俺様とで既に考えておいた。題して『Royal Soap great Operation(石鹸大作戦)』だ!」
一瞬の沈黙の中、フランソワが小声で「だっせー!」と呆れた表情で言った。
「おい、トーニ“大作戦”は分かるが、なんで石鹸なんだ?」
「しかも石鹸のくせに、Royalなんて偉ぶりやがって。逆に安物のバッタもんに聞こえるぜ」
「あー。実はこれ、エマが約束を忘れないようにって、付けたんだ」
「約束ってなんですか?」
「ああ、石鹸買ってくれるなら、協力してあげるって、さ」
急にモンタナが上機嫌で笑い出し、トーニの背中をドスドスと叩き出した。
「いやぁ、さすがはトーニだぜ。女心を上手くついて、安く上げたもんだぜ!」
「一体何個買ってやるんだ?」
「なんでも、気に入っている石鹸が有って、それ1個でイイって」
「1個、そりゃあ、何が何でも悪いぜ、じゃあ参加する1人2個ずつって言うのはどうだ?日頃世話になっているのだから1個と言わず18個だ。屹度エマも喜ぶだろう」
モンタナの提案に皆が賛成したとき、丁度2階にある将校用のロビーからニルス少尉が降りて来た。
「悪いが、偶然聞いてしまった。言っておくが僕たちは警察じゃないから、許可なくして銃の持ち出しは出来ないよ」




