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Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)  作者: 湖灯
★★★ Black shadows approaching(迫り来る黒い影)★★★
14/53

【The man who came to the scout①(スカウトに来た男)】

「ミヤン」

「違う。お前はミヤンなんかじゃない」

「忘れたんですか、軍曹。僕はミヤンですよ」

「ふざけるのも、いい加減にしろ」

 声を荒げずに言ったのは、偽物にしてもミヤンに似た者の前で荒ぶれた姿を見せたくはなかった。屹度天国に居るミヤンが、もしも見ているとすれば心配するから。

「何の用だ」

「何の用とは?」

「俺に用があって試したな。しかも2度も。そしてDark Angelとは一体なんだ」

「さすがに察しが良い。そう1度目はお互いに武器を持たない近接戦、2度目は武器を持った相手とどう戦うかを試させてもらいました。そしてDark Angelと言うのは貴女のコードネーム」

“俺の、コードネーム……”

 どうやら、俺の知らない所で、何かが動いているらしい。

「次は銃で試すのか――」

「まさか、銃なんか使ったらアルバイトが皆殺しにされてしまいます」

「アルバイト?」

「そう。この方たちは、軍曹を試すために雇ったアルバイトです。もっとも、こちら側のテストではチャンと合格点を取った者を雇ったはずなんですが、貴女の前では全く何の役にも立ちませんでした」

「何故アルバイトを雇う。チャンとした組織があるのなら、組織の人間を使えばいいだろう」

「組織の人間を使うと、そのあとの労災の手続きが大変ですからね」

「そうだな、8人も急に労災で休まれたら労働基準監督所が黙ってはいないだろう。だが1人ではどうだ?」


 偽物のミヤンを睨んで言うと、奴は両手の掌を前に向け「Non、Non」と言いながら嫌な笑みを浮かべた。

「私たちは軍曹と闘いに来たのではありません。逆に迎えに来たのです」

「迎えに来た?」

 エマの携帯に送られてきた“I will receive a dark angel today”(本日ダークエンジェルをお迎えに上がります)の文字が目に浮かんだ。

「そう。今いらっしゃる外人部隊では、危険な任務に就かされても、たったの4,000ユーロにしかならない。おまけにフランスの基地勤務しかなければ、たったの2,000ユーロ。うちの組織に来てもらえれば、ボスは毎月10,000ユーロ出すと言っています。どうです?いい条件でしょう」

「スカウトするからには俺の事を調べ上げたのだろうな」

「もちろんですとも。外人部隊入隊試験では将校用のテストを満点回答し、コルシカでの空挺訓練でもトップの成績を上げ、入隊後半年もたたないうちに特殊部隊の分隊長に就任」


 偽ミヤンは間合いを詰められないように警戒しながら、俺を中心に距離を取るように回りながら話す。

「リビアでの潜入捜査では、DGSEでトップクラスのエージェント、エマと組んでザリバン・リビア方面軍無欠解散という最高の結果を出した。あの時エマさんはまだ大尉でしたが潜入捜査と成功報酬を合わせた報酬は7,000ユーロ、貴女は特殊な任務にもかかわらず3,400ユーロと勲章で誤魔化されましたよね。パリではあの凶悪なメヒアのテロを潰し2,200ユーロ、ザリバンとの決戦でも負傷者を合わせても40名にも満たない戦力で10倍の敵から輸送機を守り抜いたのに4,000ユーロ。ナトー軍曹の武勇伝なら話しても話しきれないのに報酬は一向に上がらない」


 奴が足を止めた。

「どうです?よく調べたでしょう」

「それだけ調べて10,000ユーロとは舐められたものだな……と俺に言わせて、言い値で契約に持ち込む魂胆だろう」

「ピンポン♪ さすが軍曹。で、いくら提示します?」

「2500ユーロ」

 偽ミヤンが一瞬驚きの表情を見せた。

「2500と言えば、派遣先のない平時の軍曹の給料じゃないですか。それでいいんですか?!」

「それでいい。俺は人を傷つけてまで、お金を欲しいとは思わない」

「さすが Grim Reaperと呼ばれて米軍や多国籍軍から恐れられた伝説のスナイパー、既に神の領域に達していらっしゃる」

 偽ミヤンが大げさに拍手をする。

「勘違いするな。俺は平和な世の中で、暮らしたい。だから平時の給料で充分足りている」


「――それはつまり、破断と言う事ですか?」

「そういう事だ」

「後悔しますよ」

「いや、後悔するのは君の方だ」

「さて、どうでしょう……」


 偽ミヤンが指をパチンと鳴らすとトラックの幌が再び開き、東洋人らしい少し小柄な男と、ロシア人っぽい大柄の男が出て来た。

 最初から隠れている気配を感じていたので左程驚くこともなかったが、降りて来た2人共銃を持っていない事に、寧ろ驚いた。

 デパートの駐車場で襲ってきた10人も素手、そしてこの園芸店での10人も。

 もっとも東洋人の方は手に鉄製のヌンチャクを持ち、クルクルと回している。

 小柄と言っても背は俺より少し低い程度だが、体重は80キロくらいありそうだ。

 それに鉄製のヌンチャクをまともに食らえば、痛いだけでは済まないだろう。

 上着を着ていないのも、ただ単に筋肉美を見せびらかせたいだけではなく、屹度カンフーを使うためだろう。動きの速いカンフーには服は邪魔になるから。


 ロシア人の方は2メートル程の背丈に、120キロを軽く超える体重がありそう。

 体型的には、部隊のモンタナの背を高くしたような感じだが、モンタナに比べて筋肉はそれほど締まってはいない。

 デブではないが、動くとお腹の肉が少し揺れる。

 俺の見立て通りなら、ロシアの退役軍人。

 それならコマンドサンボの使い手に違いないから、もしも寝技に持ち込まれるようなことがあれば、俺に勝ち目はない。


 先ずやって来たのはロシア人の方。

 先ずは挨拶代わりのローキックから入って来た。

 部隊一のキックの使い手、そして元プロのキックボクサーであるブラームのキックをいつも見ている俺にとって、この程度の蹴りはスローモーションにしか見えない。

 この不用意な蹴りに対して股の間に思いっきり蹴りを飛ばそうかと一瞬考えたが、ヌンチャクの男も気になるので後ろに避けた。

 案の定、さっきまで俺が居た顔の辺りへ東洋人の操るヌンチャクが飛んできた。

 下手に金的を狙っていれば、ロシア人は倒せても、東洋人に倒されたって訳か……。

 その後もロシア人は間合いを詰めようとして、下手な蹴りやパンチを次々に繰り出すが、俺はことごとくそれを避けて間合いを詰めさせない。

 俺が下がる間も、絶えずヌンチャクの攻撃は続いている。

 直線的で動きの遅いロシア人の攻撃と、トリッキーでスピードのある東洋人の攻撃はナカナカ面白い。

 さて、どう料理するか……。

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