【Why is he here……②(何故ここに彼が……)】
ミヤンを追いかけて通りに入ると、そこにはもうミヤンの影はなかった。
あるのは沢山の路上駐車の車の列と、大きな平屋の園芸店。
距離的に考えれば、この通りを曲がったのなら、まだその後ろ姿が見えるはず。
考えられることは、2つ。
車に乗ったのか、それとも園芸店に入ったのか……。
「ナトちゃん。どうしたの?急に走り出して」
少し遅れてエマが来た。
「コンゴで死んだはずの隊員が居た」
「ミヤン君ね……。でも何故」
「分からない。とりあえずここに来たのは確かだが、見失った」
「この通りは南側が袋小路になっているわ。だからここから出るには今来た道を引き返してコルス通りに戻るか、それとも先に進んでシテ通りに出るかの2つしかないわ」
「とりあえず車の中を探そう!俺はシテ通り側を探すから、エマはコルス通り側に停まっている車を見てくれ」
「了解よ!でも、居なかったら?」
「俺は園芸店を探すから、エマはそのままリュテス通りから地下鉄を見てくれ!」
「なんかサスペンスドラマに出てくる刑事さんみたいでワクワクしちゃうね」
エマは、いつもこう。
緊張感がなくて、呑気な事を言う。
「気を付けろ。相手は凶器を持っているかも知れないから、深追いはするな」
「了解よ!」
ミヤンが肩から下げていたカメラバックが気になった。
俺たちは分かれて停車してある車の中を見て回った。
しかし何も収穫は無かったので、直ぐに店内に入る。
外の景色に慣れた目で見渡す店内は、思った以上に暗く感じる。
粗末な平屋の建物の中には幾つものお店が並び、入り組んだ通路は見通しが聞かない。
のんびりと植物の品定めをしている客に反して、俺だけが走り回っている。
走りながら何人かに、身長180㎝くらいの細身で丸坊主のカメラを持った若い男を見ていないか聞いて回ると、8人目に聞いた40くらいの男性が、そこの通りをさっき走り抜けて行ったと教えてくれたので直ぐに後を追った。
この先は、仕入れ用のトラックが入るターミナルがある。
丁度、荷台を青色のシートで覆われたトラックの横をミヤンが曲がる所が見えた。
トラックターミナルの手前のお店は、現在新装中で脚立に上った作業服の男が何かの作業をしていて、もう1人がその脚立の下を抑えている。
その向かい側のお店には、たいしたものも置いてないのにステッキを持ったお年寄り風の男の客が2人、黙々と何かを見ている。
4人とも、やけに横がある。
“嫌な予感しかしない……”
案の定、トラックの手前まで来た時に、幌が開き鉄パイプを持った4人の男が降りて来て、行く手を塞ぐ。
脚を止め振り向くと、後ろにもステッキを持った2人と、工具を持った奴とアルミ製の脚立を抱えた奴が近づいて来る。
“8人か……さて、どいつから仕掛けてくる?”
前の男が鉄パイプを振り上げて襲ってきた。
相手が振り下ろすタイミングで、体を半身にしながら振り下ろす腕に飛び込んで、鉄パイプを持つ腕を掴み相手の力を利用して投げ飛ばす。
ついでに鉄パイプは、貰っておいた。
次の男が今度は鉄パイプを横に振り脇腹を狙ってきたので片膝を折り、身を低く足を回転させて、その男の足を払うと男は芸術的な転び方をしてくれた。
ご褒美にその頬にキス――ではなく、鉄パイプをお見舞いしてあげ、その手に持っていた鉄パイプをいただいた。
俺が回転しながら身を上げるのを待たずにステッキを持った1人が突いてきたので、それを回し蹴りで払落し、左手で持った今頂戴したばかりの鉄パイプを離し目の前に迫っていた工具を持った男の額に向けて投げつける。
投げた左回りの運動のまま右手に持った鉄パイプで、今ステッキを払い降ろした男の側頭部を打つと、次は打たれて倒れかけた男の背中に乗る様に体を回転させながら、その陰に隠れていたもう1人の延髄に蹴りを入れ倒した。
カランカランと鉄パイプが転がる音と共に、3人が同時に倒れた。
半身になった体の左手に鉄パイプの男が2人、右手には脚立を持った男。
左から鉄パイプの男が2人縦に並んで突っ込んできた。
波状攻撃と言うヤツか。
その動きに合わせるように、右の男も脚立を水平に持ち突進してくる。
挟み撃ち!
俺は全力で右の脚立に向かって走り、スライディングするように身を屈め脚立を避けながら足を乗せるためにある横棒を掴み、ぶら下る様に体重を掛けた。
脚立の先端が地面に着くと同時に、丸めた背中を伸ばすように脚立の反対側を強く蹴り上げると、脚立を持って突進して来た男が頭上を飛んで行くのが見えた。
あとは立ち上がって脚立を向こう側に早く強く倒すだけ。
思惑通り頭上を飛んで行った男は、そのまま鉄パイプを持って突進して来た男にぶつかり、もう1人の男は俺が押した脚立の餌食になって倒れた。
さて、ミヤンに化けている奴を追うか。
体に着いた埃を払い、歩き始めたとき、トラックの陰から拍手するように手を打つ音と共に声が聞こえてきた。
「24秒26。いやいや、たいしたものだ」
現れたのはミヤン。
いや、正確にはミヤンじゃない。
ミヤンに化けた奴だ。
「何者だ!」




