【Sergeant Nato and her friends①LéMAT(ナトー軍曹と仲間たち、リマット篇)】
俺の名はナトー。
職業は軍人で階級は1等軍曹。
フランス外人部隊の特殊部隊LéMAT第4分隊の分隊長を務めている。
年齢は20歳、身長176㎝、体重および3サイズは秘密だが胸は少し邪魔になるくらい。
その他の身体的特徴は、紫色を帯びた銀髪に右目がエメラルドグリーン、そして左目がマリンブルーのオッドアイ。
白人系イラク人。
と、言っても、生まれは定かではない。
両親は俺が生まれて間もない頃にイラクで起きた大規模な爆弾テロで死に、瓦礫の下に埋もれていた俺をヤザとハイファと言う夫婦が引き取って育ててくれた。
しかしそのハイファも俺が未だ5歳の時に、今度は多国籍軍の誤爆によって命を落とし、義父のヤザは復讐のため武装テロ組織ザリバンに未だ5歳の俺を連れたまま入った。
それからは武器に囲まれた人生を送り銃を玩具代わりに与えられ、幼年兵としてヤザと共に戦場を駆け巡り、いつの間にか敵から『GrimReaper(グリムリーパー=死神)』と恐れられる狙撃手となっていた。
13歳になる頃に敵との狙撃戦に勝利したものの、殺しそびれた敵が俺の居る正確な座標を砲兵部隊に指示したため、再び瓦礫に埋もれてしまった。
今度は重傷を負った俺を国際赤十字のサオリと言う医師が助けてくれ、それから4年間イラク郊外の難民キャンプで勉強や格闘技を教えてもらいながら大切に育てられた。
しかしそのサオリも、俺の義父であるヤザの仕掛けた爆弾テロの犠牲になり、この世を去ってしまう。
後の戦いで、これは間違いであることが分かったが、その時はまだ事実を知らなかった俺はヤザに復讐するために、赤十字難民キャンプを抜け出し世界各地の戦場に派遣されるフランス外人部隊へと入隊した。
おっと言い忘れたが俺はスーザン・トラバース以来80年振りに外人部隊に入隊した女性隊員だ。
もっとも部隊の規律上、扱いは男性なのだが。
*****
「いようナトー。今日の休日はどうするんだ?することが無かったら俺のベスパで市内観光にでも連れて行ってやろうか?」
「ごめん。今日はエマと約束!」
「エマに宜しくな!」
この軽いノリの男はトーニ上等兵。
イタリア人で専門は爆発物。
女たらしを気取っているが、俺に手も出せない実はウブで純情な可愛い奴。
そして俺がこれから会いに行くエマと言う女性はDGSE(フランス対外治安総局)の少佐。
DGSEと言うのはアメリカで言うCIAに似た組織で、要するにエージェントだ。
狭い廊下を急いでいると、ハイキックが飛んできて、それをペコリとかわす。
「おっと失礼」
この黒人は兵長のブラーム。
兵長と言うのは伍長の補佐をする兵士で準下士官の地位。
冷静沈着さが売りの彼は、オランダ出身の元キックボクサーだ。
「やあ軍曹、お出かけですか?」
通路の角を曲がったところに現れた、どでかい男はモンタナ伍長。
アメリカ出身の元NFLの名選手として鳴らした過去を持つ。
パワーはあるが心優しい男。
通路から外に出ると、オフロードバイクに乗った背の高いスラッとした男が俺を見つけて格好良くUターンを決めて止まった。
「軍曹、送っていきましょうか?」
「ありがとう。でも迎えが来るからいい」
このバイクの男は元AMAスーパークロスなどで活躍したメキシコ人ライダーのキース1等兵。
オフロードバイクのスペシャリストで隊内では連絡要員として活躍する。
「おいおいキース。抜け駆けは見逃さねえぞ!」
同じバイクだが、今度はハーレーが3台やって来た。
キースより背が高く体躯の好い革ジャンの男がフランソワ上等兵。
元は如何わしい店の用心棒をしていたベルギーの荒くれ者。
ちょっとだけ有名なアクション映画俳優に似ているのが自慢で、走行するハーレーからの射撃が得意技。
「軍曹、お出かけ?」
「また、図書館か?」
「いや、今日はエマと遊ぶ」
「あー……」
後の2人はジェイソンとボッシュ。
ジェイソンはスペイン人でボッシュはドイツ人。
2人とも1等兵で、フランソワの子分的存在。
宿舎の脇を通り抜けようとしたときにラジコンカー2台が競争していた。
「アッ!軍曹」
「すみません通り道の邪魔をして」
「大丈夫だ。問題ない」
1人はロシア人通信士のハバロフ1等兵で部隊内では俺の次に若い。
もう1人はギリシャ人衛生兵のメントス1等兵でハバロフと同期。
2人と話をしている所を誰かに見られている気がして空を見上げると、ビルの屋上に止まっていたドローンが俺を狙って急降下して纏わりついてきた。
「おいっ!ニルスよせ!」
「いやぁ悪い、悪い」
2階の部屋の窓から顔を出したのはスウェーデン人のニルス少尉。
ハードとソフトを含めたコンピューターのスペシャリストだ。
と、こいつらがフランス外人部隊の、俺の大切な仲間たち。
外出をするためには部隊長直筆の許可書が居る。
それを正門の守衛室に持って行き、最終的な手続きをして、やっと外に出ることが出来る。
守衛室で外出の手続きをしようと許可書を出した時、2階の階段を下りてくる足音が聞こえた。
守衛室の2階は当直室。
「では、ここにサインを」
受付の士官が言う言葉を上の空で聞いていた。
この足音は――。
階段を下り切った所で足音が止まる。
サインをするために、俯いた目の端に濃いグレーの爬虫類系模様に白の3本線の入ったスニーカーが映る。
“ハンス……”
心臓の鼓動が高鳴るのが自分でも良く分かる。
もしかしたら、この音に気が付いたハンスが足を止めて聞いているのかも知れないと思うと、余計にドキドキして呼吸が詰まる。
「軍曹、サインをここに」
早鐘を撃ったまま止まった時計を呼び戻すように、士官が催促の言葉を掛ける。
「あっ、はい」
慌てて、書類にサインした。
「気を付けて行け」
「ああ」
ハンスに声を掛けてもらい、恥ずかしさと嬉しさを隠すために、目も合わせずに“ぶっきら棒”に返事を返す。
もっとも、それは、いつもの俺の態度だが……。
ハンスは俺たちLéMATの隊長。
LéMATと言うのは、フランス外人部隊に新たに作られた特殊部隊。(架空の組織)
隊長のハンスは大尉で出身はドイツ。
かつてKSK(ドイツ連邦陸軍特殊作戦コマンド)に居た将校。
聡明で冷静沈着。
それでいて一旦行動を起こすとハヤテのごとく戦場を駆け回る、神出鬼没なコマンド―。
格闘技に秀で、銃の扱いにも長けている。
そのうえハンサムで逞しいし、俺と同じで“ぶっきら棒”だが凄く優しい。
そしてたった一度の過ちだけど、隊内の規律を破って俺が唯一女を許してしまった男。
しかもそれは、つい最近のこと。
だから今は顔を合わせるのが恥ずかしいって訳。
「来たぞ」
ハンスに言われて門の外を見ると、丁度駐車場に黒のプジョーが入ってきたところ。
「じゃあ行ってくる」
「ああ。楽しんで来い」
エマの車にむかって走り始める直前に、振り返ってハンスの顔を見ると目が合った。
ハンスは優しい目で俺の瞳を見ていた。
あの夜の事が一瞬脳裏を過ぎり、急に心臓が爆発しそうなくらいドキンと大きな音を立てる。
俺の気持ちを察したのか、ハンスが捉えていた目を慌てて離し、その仕草がとても新鮮で初々しく感じた。
“可愛い!”
胸がキュンんと鳴り、俺は今日のお天気のように浮かれた気持ちで月を跳ねるウサギの様に、身も軽くエマの車目指して走っていた。