表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「憂鬱」【ショートショート】

作者: カブトムシ(昆虫ゼリーP)


 四月の憂鬱さと、もう目の前まで迫ってきている五月雨が私の頬を濡らす。



 カッターから滴る血の雫と、廃れかけた静脈を見透かすように雨粒は私を押し殺した。



 傘など要らない。使いたくない。



 何回も何回も引き裂こうとした自身の心を、私は両手で塞ぐ。



 右耳からは机を引く鈍い音が聴こえ、左耳からは私を殴る鈍い音が聴こえる。



 膝にこびりついた痣に、私はそっと問いかける。



「君は私の傷を癒すために生まれたのかい? それとも、私の傷を増やすために生まれたのかい?」



 内出血の痕と僅かな痛覚を思い出すように、私はそっと自分の傷を舐めた。


 血なんてもう出ないのに。


 全て洗い流したのに。


 私は必死に一ヶ所の傷を舐めた。


 まるで、生きる温かみを忘れてしまったコンクリートジャングルの中の野良猫のように。


(終)






※ここから先はエピローグです。










おまけーエピローグー


 大きな音を聞くと、私はあの時の悪夢を思い出す。

 教室に並んだお人形さんたち。黒板に並んだ数式と外国語と甲骨文字。椅子や机で殴られた感触は自分の腕を切る感触とはまた違った。愛の欠如した冷酷な視線と共に振り下ろされる有機物。


 そう、私は醜かったのだ。


 醜い醜い忌み子だったのだ。


 私の腕の切り傷を見た「大人」とか言う人たちは、「死ぬ気がないのなら生きろよ」なんて大して面白味のない言葉を口々に吐く。


 そんな大人にこう言いたい。




 死なせたくないなら、生きる理由を教えてくれよ。




 少女の言葉は遠く。遠く。儚い泡となってふわりと消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ