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特殊な妹を持つ友人との付き合い方

作者:

何年も前に書いていて放置されていたギャグ話。せっかくなので投稿します。

頭空っぽにして読めるお話です。お時間がありましたら、どうぞ。

 春の日差しが優しく降り注ぐとある昼時、アンティーク調の家具や小物が並ぶ古風な喫茶店にその女性はいた。

 長いストレートの黒髪はさらりと背後に流れ、すっきりと整った顔立ちが今は物憂げな影を帯びている。

 その目の前には、明るい茶色のボブカットをふわりと揺らして紅茶を持ち上げる可愛らしい女性が、沈痛な面持ちの友人など目に入らないように涼しげに紅茶を飲んでいた。


 「それで……今度はどうしたの、怜奈?」


 いつまで経っても減らない相手のコーヒーを見つめて、観念したように紅茶をソーサーにおいたボブカットの女性が、もう一人に話しかける。


 「みなみちゃん。私、もうどうしたらいいか」


 ようやく顔を上げた玲奈と呼ばれた黒髪の女性が、困惑した表情で友人を見つめる。

 二十歳前後と思わしき二人の片方は、放っておけばずぶずぶとどこかに沈んでいきそうなほど思いつめた表情をしているのに対し、もう一方は面倒くさそうに片眉を上げてから、関係ないとばかりに窓から入り込む心地よい日差しにうっとりと瞳を細めた。

 その落差は一見、別々に来た個人客が相席をしているのではないかと目を疑うほど。―――高級感あふれる古風な館を模した喫茶店は、そのほとんどの席が半個室となっており、間違っても相席などあるはずもないのだが。


 「あの、里奈の話、なんだけど・・・」

 「でしょうね。例の妹ちゃんがどうしたの?」


 言いにくそうに話す玲奈とは対照的に、みなみと呼ばれた茶髪の女性は間髪おかずに先を促す。どうやら二人にとってこの会話は日常茶飯事らしく、和風美人と呼ぶにふさわしい黒髪の玲奈は、おどおどとみなみを見上げて話し出した。


 「里奈が昨日、家に帰って来るなりいきなり変な事言いだして・・・」




_______________________________




 ほら、あの子って少し空想癖があるじゃない?

 また何かしら妄想したんじゃないかって思ったの。家に帰るなり暴走するのってしょっちゅうだから。ただ、話の流れからどうやら恋の悩みみたいだったから、ここは姉として話を聞いてあげないと、と思って・・・。


 え?ああ、うん。今も好きだよ、相変わらず。部屋にはいっぱいポスターとか貼ってあるし、この間もキラ様カッコイイ!って絶叫が響いてたから。

 キラ様?「異世界らぶトラップ☆」ってゲームのクール系王子だよ。金髪碧眼で、設定ではSらしいけど、今は猫被って甘々フェイスらぶきゅんなんだって。二番目は、敵キャラのスラウって軍の部隊長が―――え?どうでもいい?あ、ごめんね。


 そう、それでとうとう里奈にも現実で春が来たのねって嬉しくなって話を聞いていたんだけど、どうやらいきなり3人から告白されたらしいの!それでどうしようって言ってて。

 私もできるだけアドバイスしてあげたいと思ったから、どんな人たちか聞いてみたのね。

 そしたら……


 一人目は、何でも受け入れてくれる優しい彼なんだって。いつでも笑顔で、何か問題があっても味方してくれる、安心感と抱擁感があるらしいの。無邪気で誰に対しても分け隔てなく接するから、そこが心配とも言ってたかな。嬉しい時も悲しい時も、いつでも抱きしめてくれる、頼れる人みたい。普通にゆっくり歩くのもいいけど、小走りもスキップも、彼の前ならできちゃうのって言ってたわ。


 二人目は、いつもは素っ気ない態度なんだけど、最終的には腕を広げて受け止めてくれるような、いわゆるツンデレタイプ。冷たい態度も、結局は里奈を想って注意してくれているらしくて……姉としては、なんでもかんでも「いいよ」って答える男より、こういう人の方がいいと思うのよ。来るなって言われても走って追いかけちゃうって事は、里奈も彼を好いているんじゃないかしら。


 三人目は、よくわからないけど、危険な男らしいわ。禁断の恋とか、里奈はテンション上げて言ってたけど・・・。最初から「オレに近づくな」って突き放した態度で、駄目だってわかっていても惹かれてしまうって。特に人がいないときとか、車も通っていないときは、ついいけない事とわかっていても彼に甘えてしまうって。


 ・・・え?現実の話かって?

 それよね。私も思わず聞いちゃった。「また新しいゲームでも始めたの?」って。

 そしたら急に怒り出して、リアルの話だっていうのよ。私も里奈がそんなにモテるなんて知らなかったから驚いちゃった。

 もちろん、大きな目はぱっちりとして可愛いらしいし、そこら辺のアイドルにだって勝てると信じて疑わないけれど、中身がアレでしょう?

 高校生活で是非素敵な恋をしてほしいとは思っていたけれど、すごくオープンだから、男の子から引かれてるんじゃないかって心配していたの。でも、杞憂だったみたいね。

 3人の男の子から同時に告白されるなんて、私もびっくりよ!


 ちなみに、彼らは三つ子らしいの。

 身長も外見もそっくりだから自分の持ち色っていうのを決めているらしくて、周りに区別化をはかっているらしいわ。ふふ、三人並んだら面白そうよね。

 あ、でも誰がどのイメージカラーなのかはどうしてか教えてくれなかったの。恥ずかしいのかな。可愛いところあるわよね。


 どうしたの、みなみちゃん。

 「もう想像ついた」って、何が?

 え、駄目よ!まだ帰らないで!私、どう里奈に答えたらいいか・・・。


 それに、三人の兄弟から同時に告白なんて、それこそゲームか物語の中みたい!

 我が妹ながら、すごいと思うわ。

 「信じるの…」…って、当たり前じゃない!里奈がそう言うんだもの。

 妹を信じてあげないで、姉とはいえないでしょう?


 そいつらのイメージカラーを教えてあげる、って、わかったの!?

 さすが、みなみちゃん!すごい!

 「これでアンタでもわかるでしょ」って、何の話???


 優しい彼が青。

 ツンデレが黄色。

 禁断の彼が赤。


 そうなのね!

 帰ったら、里奈に聞いてみるわ。みなみちゃんが言うんだから、間違っていないと思うけど。

 ・・・え?

 いい加減気づけって???

 もう!みなみちゃん、さっきから何を言っているの?言ってくれなくちゃわからないわ。

 そんな疲れた顔しなくてもいいじゃない~。

 私、妹にどうこたえようか真剣に悩んでいるのよ?ひどいわ。



_______________________________




 一通りの話を聞いて、みなみはこめかみに手を当てて溜息をついた。

 きゃんきゃんと子犬のように文句を垂れる残念な和風美人を横目に見つめ、馬鹿馬鹿しいとばかりにベルで店員を呼んで会計をお願いする。


 「みなみちゃんたら~!まだ話は終わってないのに!」


 黙っていれば美人なのに、目の前の友人とその妹は本当に残念としか言いようがない。

 仕方なく、みなみは口を開いた。


 「ね、玲奈。三色並んでいるものってなんだと思う?」

 「え。三色団子かしら」


 間違ってはいない。

 のほほんと答える玲奈に、がっくりと項垂れながら、内心でみなみは深いため息をついた。再度、質問を変えて問いかけてみる事にする。


 「じゃあ、赤、黄、青の三色と言えば?」

 「そうねぇ。ルーマニアの国旗?」

 「ち・が・う」


 いや、間違ってはいないけれども!

 無駄に頭がいいのに、斜め上の珍解答をする玲奈を見つめて、何故長年友人を続けているのかと、みなみは自問してしまった。ここまでくれば、もはやアッパレだ。

 お釣りをもってやってきた店員に礼を言って、みなみは正面から玲奈を見据えた。


 「赤、黄色、青といえば信号でしょうが」


 青は進め、黄は注意、赤は止まれ。

 小学生でも知っていることだ。

 「そっかぁ」と、玲奈は驚いたように手を打って、うんうんと頷いた。が、しかし、「それで?」と純粋な瞳でもってまっすぐにみなみを見つめる玲奈に、みなみはぎゅっと拳に力を込めた。額に青筋が浮いているのは見間違いではない。


「妹ちゃんの趣味は」

「妄想」


 妹を可愛いと言いながら言いよどむわけでもなく返すその内容は、少々ひどいのではないかと思うが、いかんせん、事実なのでどうしようもない。


 「あ、もしかして。里奈は信号を見て思いついたのかな」

 「十中八九、そうでしょうよ」


 ようやく気づいたかと、冷めた目線で玲奈を見返し、用は済んだとばかりにみなみは席を立つ。

 玲奈は慌てて帰ろうとする彼女を呼び止めた。


「待って! でも私、里奈になんて言えば……」


 (妄想なんだから、何も言わなくてもいいでしょうに。)

 真剣な彼女には悪いが、どうでもいいとしか言いようがない。

 そこそこやることがある休日に、こんなことだろうと思いながらも時間を作ってしまった過去の自分を恨むのは、みなみにとって毎度のことである。


 「まあ、適当に。」

 「そんなぁ。みなみちゃぁん!」


 玲奈は情けない声を上げ、出ていこうとするみなみを追う。

 途中、まだ払っていなかった自分の分の会計をするためにカウンターで足止めをくらう玲奈を尻目に、みなみは待つこともなく外に出た。


 薄情と言うならばいえ。

 どうしようもない姉妹に振り回されるのはいつものことだ。


 (もう、病院が来てくれないかな。)


 妹を診た後、ついでに姉も回収していったらいいと思う。

 「ありがとうございました」の店員の声と同時に、ぱたぱたと近づく足音を聞いて、それでも付き合ってしまう自分も自分だよな、と、みなみは遠い空を見上げた。


 雲一つない空は、妙に眩しかった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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