04 フクロウ百貨店のお客様・二人目
お昼になって、カナールが届けてくれたランチをカウンターで食べて、しばらくしたら今度は二人目の客がやって来た。
実質、本日一人目のお客様である。
「やぁ。こんにちは、シュエット」
そう言って、柔らかなほほ笑みをたたえて入ってきたのは、ダンディなおじさまだった。
年齢は、四十代後半から五十代前半くらい。白髪混じりの黒褐色の髪はツーブロックスタイルにセットされ、身にまとう服には清潔感が漂う。
若者にはない大人の色気と余裕。年齢を感じさせない鍛えられた体は、頼りがいがありそうだ。
彼の名前は、エドガー・コルモロン。ミリーレデルのフクロウ百貨店の常連客だ。
週に一度は必ず顔を出してくれて、あれこれ購入してくれる。
彼は、シュエットがこの店を引き継ぐ前から、ずっと利用してくれていた。
「いらっしゃいませ、コルモロン様」
コルモロンは、人気が薄れつつあるフクロウをこよなく愛する、愛好家である。
今日もその肩には、相棒であるワシミミズクが堂々たる風格で鎮座していた。
シュエットを見て、ワシミミズクが「ホゥ」と鳴く。
主人に似て、礼儀正しい子なのだ。
「今日も、いつものものでよろしいでしょうか?」
「ああ。いつものでよろしく頼む」
「かしこまりました」
シュエットはペコリと会釈して、席を外す旨を伝えた。
コルモロンもいつものことなので、「ああ。何かあったら声をかけるよ」と気楽なものである。
肩に乗っていたワシミミズクが、勝手知ったるわが家のようにラパスの隣へふわりと舞い降りる。
「ラパスくんは今日もかわいいなぁ」
看板鳥のラパスがコルモロンに撫でられてくすぐったそうに目を細めるのを見ながら、シュエットは店の奥へと向かった。
コルモロンの相棒であるワシミミズクのレディ・エルは、食べるものにこだわりがある。
ミミズクである彼女は当然ながら猛禽類だ。食べるものはもちろん、肉。
人によっては泣き出しそうになるようなモノを、シュエットは慣れた手つきで梱包していく。ラットにヒヨコにウズラ……あとはレディ・エル専用に配合した練り餌。
幼い頃からフクロウを世話してきたシュエットにとって、何の抵抗もない。ネコやイヌに専用フードをあげるのと同じような感覚だった。
中身が傷まない、冷却効果のある特別な箱に入れたら、丁寧にリボンをかける。
コルモロンから、このリボンは必ずピンクでと指定されていた。
なぜなら、レディ・エルはこのリボンで遊ぶのがお気に入りだからだ。
見た目は少々強面だが、レディ・エルの趣味は女の子らしい。
「あら?」
綺麗に整った箱を持って戻ると、カウンターの近くにいたはずのコルモロンがいなくなっていた。
「どこへ行ったのかしら……?」
そう広くない店内をシュエットが見回すと、レディ・エルの甘えるような鳴き声が聞こえてくる。
「レディ・エル?」
箱をカウンターへ置いて、急ぎ足で声のする方へ向かう。
コルモロンとレディ・エルは、とあるフクロウの前にいた。
真っ白な大型のフクロウ、シロフクロウの前である。
「キュルルル」
レディ・エルはしきりに、シロフクロウに向かって鳴いていた。
甘えるような鳴き声に、コルモロンがムッとしている。
「レディ・エル……」
娘のように愛してやまないレディ・エルが、シロフクロウに対して求愛行動をしているのだ。父親としては、面白くないだろう。
「コルモロン様」
こういう場合はどうするのが適切なのだろう。
シュエットがどう言っていいか分からずに困惑していると、コルモロンはバツの悪そうな顔をして咳払いした。
「すまない。つい……」
「いえ。コルモロン様はレディ・エルを大切にしているのですから、当然だと思います。私の父も……たぶん、私に恋人が出来たら同じような反応をすると……思いますし」
ミリーレデル氏の娘溺愛は有名である。
二女のアルエットにはじめて恋人ができた時、大人気なくも全力でつぶしにかかったという話が面白半分でうわさされたことがあったが、事実だったりする。
コルモロンもそのうわさを聞いたことがあったのだろう。苦笑いを浮かべて「そうか」と返した。
「このシロフクロウは……検討中の家族がいたり、するのだろうか?」
コルモロンの質問に、シュエットの目がキラリと光る。
(これはもしや、ご家族に迎えるかもしれない……?)
期待に胸を膨らませながら、シュエットはシロフクロウを見た。
レディ・エルのラブコールに、彼もまんざらでもないらしい。
足元に置いてある置き餌を渡そうかどうか、悩んでいる様子だった。
フクロウの求愛は、鳴き交わしたり、オスがメスに給餌行動をしたりする。
レディ・エルの鳴き声に対し、シロフクロウが給餌しようか悩んでいる。
これはつまり、両思いになる可能性が非常に高いということだ。
「いいえ、いませんわ」
「そう、か」
コルモロンが悩ましげな顔で、レディ・エルを見つめる。
レディ・エルはシロフクロウをすっかり気に入ったようで、大好きな飼い主の視線に気付きもしない。
「ううむ……」
うなり出してしまったコルモロンに、これは長丁場になるかもしれないとシュエットは思った。
(でも……)
これは、チャンスだ。
シロフクロウに、家族ができるかもしれない。
シュエットはコルモロンの手をギュッと握り、彼を見つめた。
情熱的な彼女の視線に、コルモロンがギョッと目を剥く。
「しゅ、シュエット⁈」
「コルモロン様。彼を迎え入れることを、検討してくださいませんか? きっと、レディ・エルと仲良くできますわ」
「あ、ああ、なんだ、そういうことか……」
コルモロンは、モテる。
モテるゆえに、シュエットの熱を帯びた視線をうっかり誤解してしまったらしい。
ここにカナールがいたら、後悔していただろう。まさかおじさんまで誑かすとは、と。
ホッと息を吐くコルモロンに、シュエットは「はて」と不思議そうだ。
またしても彼女は、どういうことだか分かっていない。
堅物女のシュエットは、モテたこともなければ恋人がいたこともない。
異性との適切な距離感もまた、知らないのだった。
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