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02 ペルッシュ横丁のフクロウ百貨店

 魔導師や魔導書が当たり前に存在するこの国で、三人きょうだいの一番上に生まれるなんて、なんてついていないのだろう。


 もしもきょうだいが運試しに出れば、昔話にある通りに、長女や長男が真っ先に、それも手酷く失敗することぐらい、この国の人ならば誰だって知っている。


 シュエット・ミリーレデルは、三人姉妹の長女だ。

 せめて貧しい家の子であったなら、少しは出世の望みもあっただろう。

 だが残念ながら、彼女はあいにくそうではなかった。


 ミリーレデル家は、代々王都で魔導師御用達のペットショップを経営している。

 魔導師が好むような、フクロウやネコといった魔法動物や関連商品を販売しているのだ。


 魔導通信機が普及してからフクロウの人気は落ち込みがちだが、それでも経営状況は上々。両親は裕福だった。


 真面目でしっかりしたシュエット、ちょっとおバカだけれど可愛らしいアルエット、誰もが口をそろえて美人だと褒めそやすエグレット。

 彼女たちの父、ミリーレデル氏は、三人の娘が自慢である。

 そのため、王都でも指折りの学校へ三人を通わせた。


 長女のシュエットは、三人の中でもとりわけ努力家だった。

 二人の妹の模範となるように、いつもキリキリと根を詰めて頑張っていた。

 その結果分かったのは、長女の自分では成功の見込みがない、ということである。


 リシュエル王国は、魔導師の国だ。

 偉大な魔導師を数多く輩出し、生活にも魔術が欠かせない。魔導式ランプや魔導式通信機など、魔力がなければ使えない便利な道具は多い。使えなかったとしても、代替品がないわけではないのだけれど。


 残念なことに、シュエットは魔力保有量がゼロという珍しい体質だった。

 体内で作った魔力を体内に留めておくことができず、放出してしまうのである。


 これは、致命的だった。

 魔力保有量が多ければ多いほど成功しやすい傾向にあるこの国で、シュエットの体質は足枷でしかない。どんなに勉強が出来ても、魔力がなければ実行出来ないのだから。


 シュエットはがっかりした。

 けれど幸いなことに、家業に魔力は全く関係がない。

 可愛らしいもふもふに囲まれた生活も悪くないじゃないと、シュエットは家業を引き継ぐことにしたのである。


 学校を卒業したシュエットに任されたのは、縮小して随分と小さくなったフクロウ専門店だった。

 王都の東、ペルッシュ横丁にある、ミリーレデルのフクロウ百貨店。それが、シュエットの仕事場である。


 ペルッシュ横丁には、色鉛筆のような愛らしい建物が立ち並んでいる。

 赤、青、黄色、緑にオレンジ。一軒だって、同じ色は存在しない。


 なんでも昔、この横丁は薄暗く、どれがどの店なのか見分けがつかなかったのだとか。

 目的の店にすんなり行くことが出来ない人が多く、見分けるために塗ったらしい。


 まるで絵本の世界のような風景に、観光客も訪れるほどだ。

 あいにく、ミリーレデルのフクロウ百貨店には入って来やしないのだけれど。


 ミリーレデルのフクロウ百貨店は、花紺青(スマルト)色の建物だ。

 花を彷彿(ほうふつ)とさせる淡い紺色のこの店を、シュエットはとても気に入っている。

 建物は三階建てで、一階が店舗、二階が倉庫で、三階はシュエットが住んでいた。


 レースアップのブーツを履いた足が、一段一段ゆっくり階段を降りてくる。

 きつく結い上げられた赤みがかった茶色(チョコレートブラウン)の髪には一つの乱れもなく、首元まで隠すドレスには隙もなければ色気もない。深い青色の目は、芯が強そうで頑固そう。

 いかにも真面目な優等生といった風情だ。


 彼女こそがミリーレデルのフクロウ百貨店の店主、シュエット・ミリーレデル。

 まだ二十歳だというのに、若さが足りない。まるで人妻のような慎み深さである。


 もっと胸元の開いたドレスにしなさいと彼女の妹たちが何度も注意したけれど、「そんなはしたないことは出来ない」と一刀両断するばかり。

 せめてそのきっちり結った髪を少しルーズにしてみたらとアドバイスしても、「だってこうしないと、フクロウたちに(ついば)まれてしまうのだもの」である。


 おかげで、学生時代についたあだ名は女家庭教師(ガヴァネス)

 同級生に「せんせい」なんて呼ばれていた。


 そんな彼女の手には頑丈な革製の手袋が嵌められていて、まんまるもふもふな鳥が一羽、眠そうな顔で掴まっている。

 彼の名前は、ラパス。

 シュエットの大切な家族であり相棒であり、店の看板鳥である。


 ふわふわの頭には、ウサギの耳のような羽角(うかく)がぴょこんと生えていた。

 フクロウなのか、ミミズクなのか。それが問題である。

 ウサギフクロウなんていう名称がついているのに、羽角を持つフクロウ。

 それが、ラパスだ。


 一階へ到着したシュエットは、店舗のドアを解錠した。

 ドアのすぐ横にある止まり木にラパスをとまらせ、ドアのカーテンを開ける。明るい日の光が窓から差し込んで、店内を照らした。


「おはよう、みんな。今日は、あなたたちの大切な家族を、見つけられると良いのだけれど……」


 小型のコキンメフクロウやアナホリフクロウ、中型のメンフクロウやモリフクロウ、大型のメガネフクロウやシロフクロウが、眠そうな顔で「ホゥ」とシュゼットへあいさつしてくる。

「おはよう」とも「そうだね」とも取れる鳴き声だ。


 壁にかけられた時計を見上げたラパスが、カッカッとクチバシを鳴らす。


「あら、もうそんな時間?」


 時刻は、まもなく開店時間の十時。

 シュゼットは急いでドアの窓にぶら下がったプレートをひっくり返して『OPEN』にした。


 特注のフクロウ時計が「ホッホゥ」と鳴き出す。

 時刻はジャスト十時。

 本日も、ミリーレデルのフクロウ百貨店、開店である。


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