つよい《聖女》のつくりかた
――《聖女》になるための条件は、とてもシンプルだ。
第一に、健康な女性であること。
第二に、一定以上の魔力があること。
第三に、『聖女になる覚悟』を持っていること。
この条件が満たされれば、聖女になることができる。
第二条件までは、多くの少女が満たすことができた。
だが、問題となるのは『第三』の条件。
「覚悟が足りなければ、お前も死ぬことになる。分かっているね?」
「……はい。覚悟なら、あります」
白い法衣に身を包んだ老婆の言葉に、少女は頷いて答える。
長い黒髪に、青色の瞳。少女の名はアーシェ・ピードリス。
アーシェも老婆と同じく法衣に身を包み、これから《聖女》になるための儀式を受ける。
幼い頃から修行を積んで今――この場に立っているのだ。
「今まで何人もの弟子を送り出して、何人もの死を見てきた。手塩にかけた弟子をね……お前は、そうならないことを祈っているよ」
「心配には及びません。私は、必ず聖女に成ってみせますから」
「その言葉、期待しているよ。じゃあ、『契約』してきな」
「……はい」
老婆の声に従い、アーシェは歩き出す。明かりがなければ、目先すらも見えない程の暗闇。
アーシェは迷うことなく、緩やかに地下へと続く道を降りていく。
やがて平坦な道に出ると、足元が水に濡れた。
ひんやりとした水に少し驚いたが、それでもアーシェが歩みを止めることはない。
アーシェが聖女としての道を選んだのは、六歳の頃だ。
魔物によって、アーシェの暮らす村は滅ぼされた。家族も呆気なく失い、たった一人でこの世界に残されることになったのだ。
それが当たり前のように起こる世界で、けれども魔物に勝てる人間は少ない。
――魔物に勝つために、強い人間を作り出す『手法』の一つ。
それが、聖女の儀式であった。
これから、アーシェは聖女に成る。足りない力を、足りる力とするために。
「……」
やがて、アーシェは広間へと足を踏み入れる。
そこは綺麗に整えられたブロックで囲われた部屋。
その奥地に、《女神》はいた。
石像にしては随分と生々しい、一糸まとわぬ姿のそれは――紛れもなく、女神だったとされるモノ。その石像に願うことで、儀式は始まる。
アーシェは身に纏っていた法衣を脱ぎ捨てると、女神と同じように裸体となる。
そのまま、女神の前に片膝を突き、小さく息を吐いた。そして、
「私の名はアーシェ・ピードリス。女神よ、私に大いなる力をお与えください。私の――一部をあなたに捧げます」
「――」
アーシェの言葉に応えるように、幼い少女のような声が響き渡る。
だが、それはまるで『人』とはかけ離れていて、背筋が凍る感覚を覚えた。
「ください、ください、ください、あなたの一部をください」
次に聞こえてきたのは、そんな声。アーシェがゆっくりと顔を上げると、女神の石像もまた――同じ目を開いた。
だが、その女神の石像には『両目』がない。
「いただきます」
アーシェが最後に見たのは、女神から伸びる『二つの手』。次に感じたのは、暗闇の中で感じる両目への激しい痛み。
「あ、ぎっ……ああああああっ!」
アーシェは叫ぶ。
生暖かい血が溢れ出して、焼けるような痛みだけが両目に走る。
アーシェが捧げたのは、二つの眼。
女神の石像はアーシェの両目を自らの空洞へと入れ込む。青色の目が――アーシェを見下ろした。
「あっ、くぅ……うっ」
アーシェは常人では耐えられない程の苦痛に耐え、祈りを捧げるように両手を組む。
その姿を『見た』女神が微笑み、
「あげる、あげる、あげる。貴女に――力をあげる」
その言葉が耳に届くと、アーシェの身体は意図せずしてビクリと跳ねた。
身体の中に『何か』が流れ込んでくる――それは、自分とは違う『魔力』。他人の魔力が、自分の身体に混ぜられていくという、奇妙な感覚。
心臓の鼓動が早まり、今にも爆発しそうだった。
それでも、アーシェは祈りを捧げる――やがて、彼女は聖女に『成った』。
「あ――」
たった一言だけ、声を漏らす。それだけで大気が震え、地響きが起こる。
「貴女は何も見れなくなった。だから、頼れるのは『音』だけ。貴方には、『音』をあげる」
ただ、そう女神は言うと、再び沈黙する。
その場には、アーシェ一人が残された。
今の言葉だけでも、アーシェは自らの力を理解する。
「私の力は……『音』」
普通に話す分には、何も起こらない。けれど、立ち上がって『声』に魔力を乗せる。すると、
「あ――」
周囲の壁が一気に砕かれる。
声の発した方向に魔力を乗せて、全てを破壊する。――『音の聖女』が誕生した。
「これで、私は……世界を救える」
スッとアーシェは立ち上がると、まるで見えているかのように歩き出す。両目を失う可能性も――最初から理解していた。
アーシェが行ってきた修行は、どこを失っても問題なく動けなくようにするための修行。法衣の一部を契ると、アーシェは両目の止血を施す。
こうして、聖女がまた一人。
自らの一部を犠牲に、魔物に対抗することができる人間は作り出される。
そうして出来上がった『聖女』が向かうのは、戦場。
終わることのない、魔物達との戦いに、アーシェも身を置くのだ。
「貴女に希望の光があらんことを」
誰もいなくなった部屋で、そんな声だけが響く。
アーシェが去った後――彼女の壊した壁は、徐々に治っていくのだった。
最強の力を得るために、何かを犠牲にするっていう展開が好きなので書いてみました。
『面白い!』『好き!』って思ったら、画面下の☆を押していただけると、作者の連載力が上がります!




