二日酔いの第8話
お酒は二十歳からです。
校内はすでに文化祭モードに突入していた。
参加団体は明後日からの文化祭に備えて精を出していた。
「それはもうちょい後ろでもいいんじゃないか?」
「材料足りないぞ!」
「男子! さぼってないでちゃんとやりなさいよ!」
かくいう俺のクラスも、執事&メイド喫茶というあんまり風紀によろしくなさそうなものを出店するらしい。
だが実際、俺と俊哉、そして咲は屋台もあるのでこっちでは活躍できそうにない。
俊哉があんまり顔を出せないと決まった時、多くの女子が残念そうな顔をしていたのは印象的だった。
ああ……親友がモテモテなのはちょっとむかつくな。
「俊哉! ジュース買ってこい!」
「はぁ? 何で俺が……」
完全に俺に理不尽な奴あたりをされた俊哉は不満そうな顔を浮かべる。
まあ当然のことだろう。
「で、何がいいんだ?」
だが、それでも行ってくれるこいつはいい奴なのかもしれない。
少しだけ俺の良心が痛んだ。
「……あんまり喉が渇いてないからいいや」
「お前、今は冗談言ってられるときだったか?」
俺達の周りはみんな忙しそうだった。
今のは俺が悪かった。
「悪い。つい出来心だ」
「お前、それ謝ってないだろ」
「そんなことはないぞ。モテモテの俊哉君には本当に申し訳ないと思ってるよ」
「……」
俺の芝居掛かった口調に俊哉は呆れたようだ。
「カイ! ちゃんと準備しなさいよ!」
「うおっ!!」
そんな俺達の会話に介入してきたのははなびだった。
第三者からみれば今のはサボりでしかないな。
「女子のみなさん。今日はカイさんが何でも言うことを聞いてくれるそうよ」
「委員長!?」
「マジで!?」
「ちょ、ちょっと待て!!」
委員長の爆弾投下によって俺は突然窮地に立たされた。
女子たちは俺をいろんな瞳で見つめる。
特に目が血走ってるやつは要注意だ。
「えーと……」
女子たちが俺にゆっくりと近づいてくる。
一体俺は何をさせられるんだ!?
「そうだ! 俺は屋台の方にも顔を……」
「あーーーー!! 逃げたーーーー!!」
俺は劣勢になったので、迅速に教室を出て、校庭に向かう。
屋台の方はナナちゃんと咲に任せてあるはずだ。
「準備はどうだ?」
そして屋台のところまで来た俺達は二人に話しかけた。
「順調だけど、男手がいないのに力仕事を任せるのは酷いと思う」
「う……」
咲が俺に厳しく言及する。
そういえば俺と咲は冷戦状態であった。
「と、いうわけで力仕事系は全て頼みますよ~。私たちは休みます」
「は、はい。どうぞ」
刃向かえない俺は二人の言うことに従った。
ああ……俺ってすごくヘタレだよ……
と、いう風に思ったが、準備は着々と進行した。
このまま穏便に事が終わると思ったのだが……
「ちっ。何で生徒会が出店なんかしてんだよ」
「!」
俺と咲とナナちゃんが後ろから聞こえてきたその発言にピクリとした。
その発言には俺達への敵意が込められていた。
「おいやめろ」
「あいつらのせいで俺達の予算は削減されたんだぞ!?」
「今更そんなこと言っても……」
どうやら声の主は、俺達が出店することによって損をした団体の人間らしい。
俺達が出店することによって予算が前よりも縮減されたのだろう。
だが、そんな団体はいくつかあるはずだ。
「ちっ。今に見てろよ……」
最後にそいつは俺達を人睨みした後に立ち去って行った。
生徒会にいてこんなに怨まれたのは初めてだ。
まあ恨まれるのには慣れているけど……
俺は無意識に咲を見る。
「何?」
「いや……」
やっぱり恨まれるのは気持ちがいいものじゃない。
「何も無ければいいが……」
俺は少し心配になった。
人間追いつめられるとどんな行動を起こすか分からない。
「感じ悪いですね~」
ナナちゃんは少し憤慨していた。
咲は俺と同じく心配そうな顔をしていた。
「……まあこのことはこれでおしまいにしよう。とりあえず、準備を終わらせよう」
俺の提案にナナちゃんと咲は頷く。
……このことはさや先輩に報告するべきだろうか……?
いや、さや先輩は忙しい人だ。
こんなことで会長に迷惑は掛けられない。
俺達は無言で準備を再開した。
次の日も文化祭の準備は着々と進み、俺達生徒会メンバーは前夜祭を生徒会室で開いた。
もちろん準備は全て終了した。
「文化祭の成功を祝って……乾杯!!」
「乾杯!!」
さや先輩が乾杯の音頭をとり、俺達は乾杯した。
断っておくが、お酒ではない。
というかそんなものを飲んだら、明日の文化祭に出られなくなるかもしれない。
警察的な意味で。
「……」
だが、生徒会な奴らは「お約束」を決して忘れることは無かった。
「……」
「あひゃひゃ~。なんだかふわふわします~」
「キャイ!! もっと飲みなしゃいよっ!」
「……」
俺は目の前で繰り広げられる、酔っ払いどもの演じる惨劇を見ていた。
「zzz……」
咲と俊哉は寝てしまっているので、比較的安全だ。
問題は……
「こらカイ!! 私に跪けっ!! 靴を舐めなさいっ!!」
「……」
「キャイ!! アタシの酒が飲めないってーの!?」
「……」
絡み酒のさや先輩とはなびだった。
「あひゃひゃ~。お星さま綺麗ですね~」
ナナちゃんのように、意味不明な発言ばかりを繰り返しているのはまだいい方だ。
久しぶり……いや、初めてかもしれない。
“ナナちゃん”がまともに感じた。
「……」
そしてレイは一人淡々と酒を口にしていた。
まさかこいつ……酔わないのか?
「おーい。お前は正常か?」
「当然」
レイはほんのり赤い顔を寝ている俊也に向かって言い放った。
全然正常ではないみたいなのだが。
「こらカイ! 私のゆーことが聞けないのっ!?」
「もっと飲みなさいよっ!!」
「……もうどうすりゃいいんだ」
ツッコむ気力も出ず、俺は途方に暮れた。
生徒会に俺の味方は一人もいなかった。
惨劇から一夜明けた。
昨夜は咲のボディーガード達が何とかみんなを送り届けた。
ただ心配なのは二日酔いである。
俺は何も飲んでいないから大丈夫ではあるも……
「頭イタイ」
「やっぱりなぁ……」
さや先輩を始め、かなりの人たちが頭を抱えていた。
ちなみに忘れずに言っておくが、今日は文化祭当日である。
二日酔いで文化祭なんて前代未聞である。
もし演劇でもやっていたら悲惨な結果になったこと間違いなし。
ただ、ナナちゃんは比較的平気そうであった。
「大丈夫ですよ~。私、朝ご飯はきちんと作れました」
「そうか……」
一応最悪な事態は免れた。
多分ナナちゃんがウチらの看板みたいなものなので、失うと大きい。
「とりあえず、屋台の方に行く?」
「そうだな」
俺達は屋台の方へと向かう。
しかし……とんでもない事態が俺達を待っていた。
最初に見たのは、屋台の前にいる咲の青ざめた顔だった。
「どうした!? 咲!!」
その咲の尋常じゃない様子を見て、俺は彼女に駆け寄った。
「無い……食材が……麺が……野菜が……」
「何だって!?」
食材は業者に頼み、今朝ここに届いたはずだ。
「どういうことよ……」
さや先輩が頭を押さえながら咲に訊く。
「私……きちんとここにあるの確認したの……先生に呼ばれて戻ってきたら……」
咲の目に涙が溜まり始める。
「わたしのせいだ……私がきちんと見ていかったから……」
そして耐えられなくなったのか、咲は涙を流し始めた。
「……とにかく探そう。誰かが間違えて持っていったのかもしれない」
「カイの割には冴えたこと言うわね」
さや先輩も苦しそうにしてはいるが、俺の提案に乗る。
だが実際、その可能性は望み薄だろう……
でも今は……
これしかないんだ……!!
お酒は二十歳からです。