七瀬家で第7話
沙希の再スタートです。
本当にご迷惑をおかけしました。
申し訳ありませんでした。
俺とナナちゃんは文化祭の準備のために近くの商店街に買い出しに来ていた。
俺は一人暮らし、ナナちゃんは家事担当なだけあって結構商店街の人とは顔見知りだ。
だから結構安くしてもらったりしてくれたりする。
だが、そんなことより俺には疑問があった。
「ナナちゃんは屋台で何を作りたいんだ?」
「そうですねぇ……将来的には店を構えて……」
「今の話だから! 将来の話はしなくていいから!!」
「ええ!? 私と将来結婚する仲なのに!?」
「そうなの!? そんな仲だったっけ俺達!?」
だが、ナナちゃん流会話停滞術により、会話が思った以上に進まない。
まあ分かっていたことだけど、もう少しまともな会話がしたいと思ってしまう。
「さて、籍はいつ入れますか?」
「そんな会話を俺はしたいわけではない!」
「えー。カイ先輩は私と下ネタトークしたいんですか~?」
「言ってねぇそんなこと!!」
「駄目ですよ。そういうことを言ったら」
「駄目も何もしないから!!」
「私が盛り上がりすぎちゃいます」
「そっち!? そっちの方が問題なんだ!?」
そして、気がついたときには15分ほど不毛な会話をしていた。
ふざけたことを言うナナちゃんも悪いが、ツッコミを入れてしまう俺も悪いのかもしれない。
ちなみに、俺達は今、近くの公園のベンチで休んでいる。
決して話し疲れたわけではない。単なる休憩だ。
「で、真面目な話……」
「まあ焼きそばとかお好み焼きでしょうね」
「話をちゃんと聞いていたのかよ!」
そのツッコミの後、俺は慌てて自分の口をふさぎ、話の続きを促す。
すいません。俺も悪かったみたいです。
「というか他に何を焼くつもりなんですか?」
「イカとか……とうもろこし?」
「ああなるほどですね~。ところで橘先輩と咲先輩はどうするんでしょうね?」
ナナちゃんが二人の名前を出す。
そういえばあの二人も屋台組だったな。
つうか2班にわける必要は無いんじゃないか?
俺は今更そんなことを思った。
「ていうか何で俺達2対2で分かれてるの?」
「それは買い出し組と準備組です」
「え?」
俺は自分の勘違いに今更気がついた。
「あれ? 俺はてっきりナナちゃんと何かをやるものかと……」
「エヘヘ~。こんなところで告白ですか~?」
「何をどう解釈すればそうなる!?」
俺はナナちゃんの頭にチョップを入れた。
「痛いです~! でももっとしてくれると嬉しかったり……」
「するのかよ!?」
「まあ半分は冗談ですが」
「半分ってどこが!? どこの半分だい!? ねえ!?」
「あ、早くしないとお姉さん達に怒られます~!」
「え?」
俺は突然立ち上がったナナちゃんを見た。
「今日は一美お姉さんも五喬お姉さまもいます!!」
「え?え?」
「それでは!!」
ナナちゃんが去る間際に全ての荷物を持ち上げようとするが……
「う~~~~~~! 持ち上がりません~~~~~!」
「あ、手伝うよ」
あまりの量だから俺が荷物持ちとしているのだが。
しょうがないから持つことにする。
ちなみに、頑張って重い荷物を持ち上げようと頑張ったナナちゃんをかわいいと思ってしまったのは秘密だ。
「ですが! これは試練だと思うのです!」
「はいはい」
「はうわっ!? 流されましたっ!?」
俺はナナちゃんの発言をサラッと流してナナちゃんの家にまで運ぶことにする。
「ありがとうございます~」
ナナちゃんは頭を下げて礼儀正しく感謝した。
こういうところは案外きっちりとしていたりする。
「まあいいよ。それで、道案内して欲しいんだけど」
「あ、分かりました! 任せてください! 山を越え、川を渡り、海を飛び越えながら案内します!」
「え!? 冗談だよな!?」
「いえ、遠回りですがやろうと思えば出来ます」
「やらなくていいです」
俺は速攻でナナちゃんの言うことをぶった切った。
「えー。もっと人生は楽しむものですよ」
「いや、楽しくないと思うぞ!?」
「まあ今も十分楽しいからいいですけど」
「あ、そう……」
俺はナナちゃんに振り回されながらも、なんとか七瀬邸に到着する。
ちなみに、中々巨大な家であった。
「結構大きいね……」
「そりゃあ10人姉弟ですから」
「そ、そうか……」
俺はその家を見上げる。
昔の俺の家ほどではないが、結構な大きさであった。
ナナちゃんはそんな俺を尻目にさっさと家の鍵を開けた。
「さ、どうぞ」
「あ、ああ……」
俺は荷物を持ちながらナナちゃんの家に入った。
「お邪魔しまーす……」
少し緊張しながら家の中に入っていった。
一応断っておくが、別に女の子の家に入るからという理由で緊張しているわけではない。
単に初めて入るからだ。
「お帰りナナ」
「ぬおっ!!」
そんなとき、俺達の眼の前に下着姿の女性が現れた。
「ただいま五喬お姉さま」
「うん。で、その男の子、彼氏?」
「まあ似たようなものです」
「似てないし!! 違うから!!」
とは言いつつ、俺は下着姿の女性から目が離せなかった。
理由は分かってください。
「少年、そんなに私の下着姿がお好みかな?」
「い、いや……」
俺は急いで目を逸らす。
「お姉さま! とりあえず着替えてきてください!!」
「えー」
下着姿の女性が口をとがらせる。
「お、俺はもう帰るのでお構いなくっ!」
俺は踵を返そうとするが、何故か背中を引っ張られた。
「折角ですからゆっくりしていって下さいよ~」
「あ、いや……」
だが、押しの弱い俺は為す術もない。
結局夕飯をごちそうになることになった。
……決して夕食代浮くな、とは考えた訳では……なくもないぞ。
「いただきま~す」
一美さんの声で夕食の時間がスタートした。
ちなみに、今いるのは一美さん、五女の五喬さん、六女の睦さん、ナナちゃん、八女の八重ちゃん、長男の燈真くん、俺の7人だ。
他の人たちは仕事だったり、部活だったりしていないらしい。
「五喬。お客さんがいるんだから服くらいきちんと着なさい」
一美さんが結局下着姿のままの五喬に注意をした。
「彼がこの姿のままの方がいいって言ってたから」
「え……」
一美さんが俺を汚らわしそうなものを見るような目で見る。
「いや、言ってませんから!!」
「そ、そうよね……五喬! 服着ないのならご飯はお預けよ!」
「えー。しょうがないなぁ……少年、後で部屋に来ればもっとすごいの見せてあげるわ」
「あ、いや……」
五喬さんの怪しげな笑いが俺は怖かった。
「五喬!!」
「はいは~い。着替えますよ~」
五喬さんは残念そうなふりをしながら部屋に戻って行った。
「兄ちゃんも大変だね……」
「あ、あはは……」
ちなみに、俺と燈真くんは似た者同士意気投合していた。
どうやら彼もからかわれる対象となって苦労しているらしい。
まあ苦労人同士仲よくなったみたいな感じだ。
「で、名前なんだっけ?」
「え?」
そんな俺に話しかけてきたのは、向かいの席に座っている睦さんであった。
「蛟刃カイです」
「ミムラ?」
「ミズチバです」
「…めんどいからミムラって呼ぶ」
「は、はぁ……」
そんなにミズチバって言いにくいかなぁ……?
まあでもいいや。本名じゃないし。
俺は食事を再開する。
……美味いな。
「この料理ってナナちゃんが作ったのか?」
「そうですよ」
「へえ……さすがだな。おいしいよ」
「ありがとうございます~」
俺は自然と箸が進み、速攻で俺の前の食事は消えていった。
「ごちそうさま」
そうして食事はすぐに終わった。
せめて後片付けぐらいは、と思い、洗い物を手伝おうとする。
「駄目ですよ~。カイ先輩は客人ですから座っててください」
「で、でもな……」
何と言うか落ち着かないと言うか……
ナナちゃん一人に仕事をさせてまうのはどうかと思うのだが……
「八重ちゃんが手伝ってくれますから」
「……しょうがないわね」
当の八重ちゃんはその気は無かったみたいで、面倒くさそうにしていた。
それでも一応俺にやらせるよりは、と思ったのだろう。
「あ、いやでも俺も手伝いたいんだけど……」
「カイ先輩は座るのが仕事です」
「あ、いやでも……」
八重ちゃんは手伝ってほしそうにしていた。
まあ口には出せないだけなのだろう。
「カイ先輩は座っててください」
だが、ナナちゃんは中々強情で、俺を台所に立たせない気満々だ。
「……ワカリマシタ」
俺は渋々席に座った。
ちなみに、八重ちゃんはとても嫌そうな顔をしていた。
……もっとその顔を隠してほしい……心が痛いから。
「今日は私の部屋に泊まるでしょ?」
「もう帰ります!!」
五喬さんの実に魅力的な申し出を俺はハッキリと断り、帰る準備をした。
もう9時を過ぎたので、そろそろ帰らないといけないと思ったのだ。
「今日は夕食ごちそうさまです」
俺は七瀬家の人々に頭を下げた。
ちなみに、八重ちゃんは機嫌を損ねたのか、いない。
そして睦さんは、もう寝るみたいで、彼女もいない。
「いえいえ。私も作りがいがありました~」
「また来て下さいね」
「今度は私の部屋に泊まってね」
「また来てね兄ちゃん」
「今日はありがとうございました。さようなら」
ナナちゃんたちに見送られながら俺は帰路についた。
……楽しかったな。
一家団欒の食事ってあんなに楽しかったんだな……
「……」
少ししんみりと俺は考えた。
だが、どうしようもないこともある。
俺は今更家族と暮らそうとも思わない。
「とりあえず……早めに寝よう」
俺はそう呟きながら、一人の家に帰っていったのだった。
きちんと生徒会な日々になってるかどうかよりも、自分の執筆中の気持ちを大事にしました。
今までの自分は自分じゃありませんでした。
詳細は活動報告にて。