大ピンチ!?な第9話
もうすぐ冬休みが終わる……いや、終わって無かったのかよというツッコミはなしです。
文化祭当日の朝……
俺達にハプニングが起こった。
前夜祭における二日酔い事件もかなりのハプニングではあるも、それを超えうる最大のハプニングだ。
屋台で焼きそばとかを作る俺達にとってはあってはならないこと。
「早く食材を見つけ出そう!」
そう、食材が無くなっていたのだ。
咲の証言では、今朝にきちんと届いたらしい。
だから「誰かが間違って持っていった」という可能性を考え、聞き込み調査を開始した。
「すいません、麺とか野菜を間違って持って行っていませんか?」
「ウチはクレープだしなぁ……無いね」
「ありがとうございます!」
だが、目ぼしい情報など全くといっていいほど手に入らなかった。
他の人たちも同じようで、もう諦めるしかない……とそう思った時、ナナちゃんからメールが入った。
「裏庭の惨劇」
そんな題名と、すぐさま裏庭集合とメールに書いてあった。
「!!」
俺は嫌な予感がして、速攻で裏庭に向かった。
「ナナちゃーん!!」
俺は裏庭で一人佇むナナちゃんを発見し、急いで駆け寄る。
周りにナナちゃん一人ということは、俺が一番乗りらしい。
「カイ先輩……」
ナナちゃんの声には力が入っていなかった。
それだけで俺の不安は増加した。
「あれを……」
ナナちゃんがふるえる手でどこかを指差した。
「え? ……!?」
俺はその方向を見て、目を見開いた。
その光景はまさに惨劇そのものだ。
食材が入れ物ごとひっくり返され、ゴミみたいに捨てられていた。
「何で……!?」
俺は多大なショックを受けた。
呆然としてしまい、その場から動けなかった。
「カイ! ナナちゃん!!」
その後、みんながやって来てこの惨劇を目の当たりにした。
みんながみな、ショックを隠せないようだった。
「うう……」
咲は再び泣き出し、さや先輩は悔しそうに唇をかんだ。
「誰がこんなこと……!!」
はなびは怒りを隠せないようで、目が本気だった。
「……俺、これをした奴を無事で済ませねぇかも」
普段は温厚な俊也もこれにはかなりの憤りを感じている。
レイはいつも通りの読めない表情ではあるが、唇が震えている。
そんな状態が続き、俺はふとあることを思い出す。
「そういえば……俺達生徒会をよく思わない人たちがいるんだよ」
「そんなのいっぱいいるわよ」
さや先輩は俺の発言をさらりと聞き流す。
「いや、俺は聞いた。どこの誰だか知らないが、今に見てろよって言ってた」
「それって……」
俺のその言葉にナナちゃんと咲が過敏に反応した。
俺の言いたいことが理解できたのだろう。
「予算を削減した団体はいっぱいあるわ。だから……ん?」
さや先輩は俺の発言を否定しようとするが、何か引っかかったらしく、頭を抱える。
「くっ……どうしてこういうときに頭イタイのよ!」
あなたのせいです、とはこの状況では言えないので、黙っておくことにする。
「……あ」
そして考えること数秒、さや先輩は思いついた、みたいな顔をする。
が、しかし、すぐに怒りの表情へと変わる。
「そういえばいたわねぇ……生徒会は生徒達のバックアップを全力でするだけでいいとかほざいた奴がねぇ……」
さや先輩は頭痛いのを苦しそうにしつつも、怒りは隠せないらしい。
それよか結構根に持ってるみたいだ、この人。
「さや先輩も心当たりあるんですね!?」
「……だったら?」
さや先輩が俺を試すような眼をする。
どうしてそんな目をするか分からないが、俺は答える。
「問い詰める」
「駄目よ」
「え!?」
しかし、さや先輩の口から出たのは予想外な言葉。
彼女のことだから尋問どころか、拷問も辞さないと思っていた。
「どうしてですか!?」
「無理よ。シラを切られておしまいよ」
「でも……!!」
俺はさや先輩に食ってかかる。
「さや先輩は悔しくないんですか!?」
「悔しいに決まってるじゃないの!!」
俺とさや先輩はにらみ合う。
「あ、あああ……」
「ど、どうしよう……」
俺とさや先輩の喧嘩に他の生徒会メンバーが慌てだす。
「ならどうして何もしないんですか!?」
「そんなところがまだカイはガキなのよ!!」
「ガキで結構!! 腐った大人になるくらいならガキのままでいいさ!!」
「ああもう!! ああ言えばこう言う……」
俺とさや先輩の言いあいはヒートアップする。
ここまでになることは今までで一度もなかったのに。
「さや先輩は実際に何もしないから分からないでしょうけどね」
俺は言いたくもない言葉を次から次へと並べてしまう。
本当はこんなことで喧嘩なんかしたくない。
だが、感情がつい先走ってしまう。
「カイ先輩!!」
「!?」
そんな俺に怒鳴りつけたのは意外な人物だった。
「さや先輩の意見を聞いてからでも遅くないんじゃないですか?」
「……ナナちゃん」
ナナちゃんに言われたことで、俺は少し頭が冷えた。
「……すいません。さや先輩の意見を聞かせてください」
「……」
さや先輩は多少不機嫌ではあったものの、素直に頷いてくれた。
「そもそも、問い詰めることでこのことは全く解決しないでしょ?」
「……そうですね」
問い詰めても、もう食材は返ってこないのだ。
「それにね、証拠も何もないんじゃしょうがないでしょ?」
「確かに……」
「今、最優先にすることは?」
「食材の調達」
「そ」
何とか冷えた頭で俺は正常に戻った。
「本当にすいません。かなりのタイムロスに……」
「本当よ。頭も痛いのにね。高くつくわよ」
「う……」
さや先輩が妖しい笑みを俺に浮かべる。
そういえばこの人はこんな人だった。
「とりあえず食材の方は任せなさい」
「はい」
「だからカイ、ナナちゃん、咲ちゃん、俊也は屋台の方へ行って」
「はい!」
俺達は屋台に向かい、さや先輩たちと別れた。
「さて、お仕置きをしないとね……」
さや先輩はその後、再び妖しげな笑みを浮かべていたのだった……
俺達は屋台に到着し、屋台の無事を確認した。
さすがに屋台は壊さなかったらしい。
俺達は一応ホッとした。
「で、さや先輩どうするんだろう……」
「そりゃあ蓮見家の力を使うんだろ」
「でもこんなことでなぁ……」
俺はさや先輩に申し訳なく思った。
「さや先輩にとってはこんなことじゃ無かったんですよ」
「そう……だよな」
俺達は自分たちができる最大限のことをすることにする。
「……ってもうすぐ開会式だよ!!」
だが、時間は刻々と過ぎ、タイムリミットまで後わずかである。
「しかも開会宣言しないと!!」
開会宣言をするのは、生徒会長であるさや先輩であるため、彼女の負担は凄いことになる。
「信じるしかないでしょ」
「そうですね」
「……」
そうだ。
俺はさや先輩を信じるしかないんだ。
あの人なら、きっと何とかしてくれる。
そんな気がしたんだ。
「ピーンポーンパーンポーン。もうすぐ開会式です。校庭に集合してください。繰り返します……」
そんなとき、開会式が始まる放送を聞いた。
どうやらタイムオーバーだ。
食材はまだ来てない。
「しょうがない……開会した後になっちゃうけどな……」
そんなとき、外から車の大きなブレーキ音が聞こえた。
「!?」
「なんだ?」
俺達の他、周りにいた生徒たちも野次馬として見に行った。
そして、そこにあったのは見たことのあるリムジンで……
「あ」
「お久しぶりでございます。蛟刃カイ様」
「セバスチャンさん!!」
リムジンからセバスチャンが出てきた。
そして上を指差す。
「え?」
そうしてセバスチャンさんの差した方向を見上げると、数台のヘリがこっちに向かっていた。
「す、すげぇ……」
そしてそのヘリから荷物を抱えた男たちが、ワイアーを使って降下してきた。
「まさか……」
「お嬢様に言われた食材を、蓮見財閥のあらゆる手を使って調達してまいりました」
「す、すごいです……」
さすが蓮見財閥。
こんなに早く来るとは思わなかった。
「後はお願いいたします」
男たちが俺達の屋台のところに荷物を下ろし続け、食材の確保に成功した。
というか食材の値段より、交通手段の方がお金が掛かっている気がするのは気のせいか……?
「はい!」
セバスチャンさんたちはこれで帰るらしく、俺達は見送ろうとする。
しかし、止められる。
「今は一刻を争う事態。頑張ってください」
「あ、はい!」
セバスチャンさんは俺達を急がせた。
そして俺達も急ぐことにする。
「私が料理の下ごしらえをするので、開会式に出ててください」
一応料理を作る側なので、一人はここに残らないといけない。
なので、ナナちゃんが残ることになった。
「さあ……頑張ろうぜ!!」
俺達の文化祭が始まった。