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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
97/97

Rem:23 秘密

――チ――キチ

微かに何かが聞こえる。


「ハルキチぃ!!」

「!!」


上から怒声が降ってきて、陽樹は目を覚ました。


「……え?かあ、さん?」

「こんなところでサボって寝こけてるんじゃないよ。この子は。その上、とっ散らかして」

「俺、寝てた?」

「寝てたかどうかも分からないなんて、頭でもおかしくなったのかね」


腰に手を当てた母に上から睨まれながら、起き上がる。

何だかおでこの真ん中が痛み、無意識に擦る。

その時、胸のあたりに乗っていた何かがずれ、足の上に移動した。


「……!!」


(この本……じゃなくて、これはじいちゃんの)


自分は物入からアルバム類を下ろそうとして、潜んでいたこの祖父の手記を読んでいたのだ。そこからのめり込んで――。


「母さん!寝てたんじゃないんだ。俺……」

「いびきかいてたよ。あんた」


母は眉間に皺を寄せて、呆れた顔をしている。顔に「何言ってんの」と書かれている。


「いやだって、じーちゃんが……」


そこまで言ってはっとした。

慎也は嘘のつけない人だ。

それだけじゃない。この備忘録を読んでいたはずの間が、まるで若き日の彼が経験したそれを、自分が乗り移って見て感じたような気分だ。あまりにリアルだった。

きっと経験したそれは小説などではない。

だが慎也――いや、当時の『慎』が実の家族にそれを言い出せなかったように、陽樹が説明しても信じてもらえないだろう。


「いや……ごめん。やっぱ何でもない」


母はふっと息をつき、散らばったアルバムを拾って重ね、祖父の机に置く。そして気付いた。


「あら、飴があるわ。ハルキチが見つけたの?」

「え!?」


机の端に、りんごの絵で個包装された飴が置いてあった。

最初にここへ入った時からあったのかわからないが、気付かなかった。

母はそれを取って、投げてくれた。


「おじいちゃんはいつも、貴方の為に引き出しに飴を入れてたものね」

「……うん」


手の平のそれを見ていると、肩をポンと叩かれる。不意にそちらを向いた。

自室のドアの前に祖父が立っている。母は、机近くの窓から外を見ていて気付いていないようだ。


「!」


慎也は、右手の人差し指を唇の前に立てて見せる。まるで『秘密』だと言うように。

その傍らにスッと祖母が現れた。彼女は微笑んでいる。

やがて七輝が慎也の手を握り、彼らは背を向け、仲睦まじく歩きながら消えていった。


(わかったよ。じーちゃん。これは俺とじーちゃんとばーちゃんの三人だけの秘密な)


「母さん。俺、これ欲しいけど帰る時に持って帰っていい?」

「いいわよ。それおじいちゃんの日記?」

「うん。まあ、そんなとこ」

「ふーん。さ、それじゃ片付け再開するから、ハルキチは上の方にあるものを床に降ろしておいてね」

「うん」


母は出て行った。

陽樹は飴を頬張ると備忘録を置いて立ち上がり、転がった脚立を立ててまた手伝いを始めるのだった。




【FIN】



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