エピローグ ~彼と彼女の虹の架け橋~
途切れていた意識が再び繋がり、目を開けたら愛すべき顔が自分を覗き込んでいた。
それは、今まで自分が住んでいたはずの姿。
「慎」
目が合うなり、七輝はぽろぽろと涙をこぼした。
「……な、つき?」
「うん。七輝だよ」
布団から手を伸ばせば、七輝は頷いてそれを包むように両手で受け止めた。
枕の上でゆっくり頭を動かし、状況を確認する。
戸が障子ではなく襖だ。寺ではないらしい。
「ここは、食事会の旅館よ」
(そうか。旅館にもなっているから、倒れた七輝と自分は部屋を借りて休ませられていたのか)
納得しながら空いた片手をつき、慎は体を起こした。
掛け布団の上に、制服の上着が掛けられている。
「おれは……」
また、住むむ身体が変わっていた。
「今度は慎也か」
「うん。何かおさまるところにおさまったみたい。『慎也』は元々慎の身体で、私が借りていた仮初に過ぎないもの」
「そんなところまで……」
「もう思い出したの。全部」
七輝は優しい笑みを慎に向けた。
「慎がずっと守ってきてくれた私の身体に触れた瞬間に、記憶が蘇ってきた。貴方を愛していたこと、その毎日。本当は私が命を落としたこと。それから光のことも家族のことも。……何と、あっちの世界のことまで」
「え?あっちって、あの世ってこと?」
尋ねたら、七輝は二度頷いた。そしてこう言った。
「聞きたい?」
「聞かせて……」
慎や自分たちが生きてきた世界と隔てを作った川。自分は何という過ちを犯してしまったのだろう。
今や川から谷底へと変わったその手前で、膝と手をついて泣いた。
「慎、慎……」
(もう貴方に会えないの?触れることはおろか、顔を合わせることも、言葉を交わすことすら二度とないの?)
鳴咽を漏らしながら泣いている彼女に、狐顔の女性はゆっくりと言った。
「戻る方法はないことはない……」
「……」
七輝は顔を覆っていた両手を外し、涙まみれの表情で振り返る。
「戻れる?」
女性は頷いた。
「ただわかるように、こちら側からは戻ることは叶わない」
「どうしたらいいんですか?」
「輪廻転生」
「生まれ変わる、ということですか……?」
「ええ。記憶は白紙に戻るけど、新しい姿としてならもう一度、貴女の世界で生き直すことができる」
「記憶……」
姿も別人、記憶も無い。
そんな状態で慎にもう一度七輝だと気づいてもらえ、自分も慎を探すことが出来るのだろうか。
七輝の不安を見透かしたように、狐の女性は言った。
「強すぎる記憶は無意識に引き継がれる。稀に、前世の記憶を持ったまま新しい生を歩む者もいる」




