Rem:22 明日への扉3
法事の終わりを待ちわびていたわりには、いざその時が訪れても全然気がつかなかった。
「慎也」
兄に背中を叩かれ、ようやく解散の雰囲気を読み取る。
「!」
瞬時に立ち上がろうとするが、足に力が入らずに床に手をついてしまった。
「痺れたよなあ」
蒼は、笑いながら足をさすっている。慎也は返事もせずに、動き回る黒い人々を見た。
「……しまった」
七輝は既に、目の届く範囲にいなかった。
これからは食事会だが、うまく接触できるだろうか?
理由は特にないけど、彼女と会ってどうしても話をしないといけない。
それだけは、分かっていた。
痺れがおさまるのを待って立ち、蒼と一緒に部屋を出て玄関へ向かった。
寺の階段の下にバスを呼んであるので、皆はそれぞれに下りるために階段へ移動を始めていた。
たくさんの背中についていっていた一つが、こちらを見て手を振った。
「蒼坊、慎也。何やっているんだ。行くぞ」
「すぐに行きます」
蒼は靴を履いて、光を追い掛ける。
慎也も倣うように玄関へ下りたが、そのまま自分たちが通って来た廊下を見た。
そこに見つけた。廊下に膝をついて、既に外へ出た母と彼女が話していたのだ。
寺から次の精進料理の店に移動する前に、慎也のことを少し観察しようと思ったが、人が邪魔でよく見えなかった。
「和泉、移動」
「先に、行っててくれる?」
光には化粧を直して行くからと伝え、先に行ってもらった。
お手洗いから戻る頃には、少し人も疎らになっているだろう。
慎は立ち上がってお手洗いに行って手だけを洗い、戻った。
数分離れただけなのに、部屋には座布団だけしかなかった。
「予想外……」
うろうろと廊下を歩いて制服姿を探していると、呼び止められる。
「七輝ちゃん?」
立ち止まって砂利の庭を見たら、母がこちらを見ていた。
「やっぱり七輝ちゃん」
「久しぶりです……」
慎は縁側に行き、床に膝をついた。
「光くんから来てくれるとは聞いていたけど、まともに話す時間もなかったものね。どこにいるのかしらって思っていたわ」
「光と一緒に居ました」
「そうなの」
慎の手に、母の手が重なった。母はいつも温かい。
七輝をまるで、自分の娘に接するように可愛がってくれていた。
「大人になって美人になって。それにいつまでも若いままね」
「ありがとうございます」
慎もそれは思っていた。
本当の身体の主である七輝の魂がなくなってから、身体は成長を止めてしまったかのようだった。
肌の衰えすら無い。
「ゆっくりできるの?」
「ええ。明日まではこちらに居ます。明後日に帰ろうと思って」
「良かったら色々お話をしたいわ」
「はい。喜んで」
「ありがとう」
二人で話し込んでいると、母は父の声に呼ばれた。
「あ、これから移動だから、七輝ちゃんも靴を履いていらっしゃいな」
微笑みながら離れる母に頷き、腰を上げようと身体の向きを変えた時だ。
もう一人寺に残っていた人物に気がついた。探していた制服を着た少年と視線が絡まる。




