Rem:22 明日への扉2
法事の予定時間の三十分前になり、慎は七輝の家族と実家近くの寺に移動した。
門の近くまで行くと、親戚に混じって、高校の時の担任の姿があった。
先生と光が一緒にいて、何やら話し込んでいる。
「和泉!」
こちらに気付いた光が手を挙げ、元担任と七輝の母が挨拶を始めた。
「早いね」
「と言っても、俺だってさっき来たばかりだぜ?」
「そうなんだ……」
二人が先に歩き、後から家族と担任がついてくる。
玄関に靴を並べ、滑りそうな程にしっかり磨かれた廊下を移動した。
慎たちが障子の開け放された部屋に入る前、先に二人連れが中に入った。
一人は蒼だ。そして、もう一人……。
「っ!」
慎の表情を見て、光が笑った。
「びっくりしただろう」
(そりゃ、するさ。だって顔が、……まるでおれだった)
「あれ、慎也って言うの。まこと蒼坊の弟」
「弟……」
「お前が就職してこの町を出ていってすぐ、おばさんは妊娠が発覚してさ。産まれたのが慎也」
(そうか)
あの頃のことを思い出した。
卒業式の日、母は具合が悪くて来られなかった。
(本人は貧血だと言っていたが、あれはつわりだったのか)
「……にしても、本当にまこそっくりだと思わねぇ?俺も最初はびっくりしたぜ。成長するごとに似てくるから」
「う、うん……」
脳裏をよぎるのは、一つの可能性。
自分が七輝の身体で七輝として生きることを決意した時、本当の身体は手放した。
彼女を守ってほしいと、炎の中に葬った身体。
(もし、慎也の身体が慎のそれなのだとしたら、あの中の魂は……)
家族なのだから、偶然にも似た顔が生まれたって、全く不思議ではない。
だけど七輝が亡くなってから慎也が生まれたそのタイミングに、期待してもいいのだろうか?
慎也たちは当然ながら、寺には一番に着いた。
両親は、法事に参加してくれた親戚たちへ挨拶を述べた。
久々に顔を合わせた人にたまに話し掛けられると、慎也は兄と一緒に行儀よく挨拶に応じた。
それもだいたい落ち着いて来て、蒼はしばらく行けないことを理由に、無理に慎也をお手洗いに連れ出した。
(子どもじゃないんだから、そんなことに構わなくてもいいのに)
そう思いながらも、渋々従って戻ってくると、二人揃って前方の座布団に座った。
しばらくして、蒼が入口を見て言った。
「来た。先輩」
「光兄?」
何人かで入って来た光の隣には、女性が一人。
慎也には一目で、昨夜家の前を歩いていた彼女だと分かった。
「兄ちゃん。あ、あの人は誰?」
「彼女が七輝さん。昨日説明した、兄貴の恋人だった人だよ」
「七輝……」
「何だ。知ってた?」
慎也は頭を振った。
「そうじゃなくて。名前に聞き覚えがあるような気がしたけど、気のせいかも」
「珍しい名前でもないし、別人に同名がいたんじゃないか?七輝さんはお前が生まれる前に地元を離れて、それからうちには来なかったしな」
「だよね」
そう言いつつも全てを納得できなくて、横目に入る視野で七輝と光を見てしまう。
しばらくはこそこそと見ていられたがやがて両者の間に親戚が入ってしまい、見えなくなってしまった。席が埋まる頃には和尚が出て来て法事が始まった。
人の良さそうな顔の老人は一番前に座り、供を空で読み上げながら木魚を叩く。
慎也の心は、まるで幼い子どものように上の空だった。
亡くした兄を思うでもなく、意識はずっと後方に座る兄の恋人だった人に向けられていた。
心が何となくざわめいて、落ち着かない。いやに長く感じられる法事。
(早く終わってしまえばいいのに)
そんな罰当たりなことを考えていた。




