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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
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Rem:22 明日への扉

「あつーいー。あっついのよーう!」


黒い喪服に着替えて居間に下りるなり、元気な声。

ドアを開けると、慎を見つけた小さな姿が走ってくる。


「あっ!」

「なっちゃん!」


里津がすばしっこく、慎の後ろに隠れる。


「こら、里津!」


若葉もこちらへやってきて、慎の脇の下から右手左手と交互に突き出す。


「え?え?」

「七輝!里津をつかまえて!」


戸惑っていると、若葉が慎の腰に手を巻き付けてバランスを取り、可能な限り空いた片手を伸ばす。

小さいと言っても、知恵は働く。

里津はぴょんぴょんと後ろに下がり、捕まらない位置まで逃げる。


「何ごと?」

「あの子ったら暑いって駄々をこねて、靴下を履こうとしないの。上着も見てよ。あんなにずり下がって」


ボタンの留められていない上着は、肘の辺りまでずり下がっている。

若葉は、ずるずると床に座り込んだ。


「朝から疲れた……」


育児は大変らしい。慎は笑って、里津の方を向いた。


(七輝なら、こんな時はどうするかな?)


ユーモア溢れる彼女なら、楽しく着替えさせようとするだろう。


「りっちゃん」

「……」


着替えさせられまいとして、里津は違う方を見た。


「りっちゃん、『いないいないばあ』をしようか?」

「いないいないばあ?」

「うん」


慎は里津の前に、膝をついた。


「見ててね」


まず乱れていた上着をきちんと整え、ボタンと相方の穴をつかんだ。


「いないいない……」


口ずさみながら、ボタン穴に通す。


「ばあ!」


最後の言葉を言うと同時に、ボタンはきっちりと留まった。


「りっちゃんは、できるかな?」

「里津できるよ!」

「じゃあ、一緒にやろうね。りっちゃんは上のボタンをやって」

「せーの!」


二人で歌いながら、一緒にボタンを留める。四つしかなかったボタンは、すぐに全部留まった。


「うまいわね」


見守っていた若葉が感心をする。


「じゃあ、靴下を……」

「やーっ!」


今度の難関は、靴下だ。


「……靴下が嫌なの?」


慎は、里津の頬を両手で包む。


「靴下を履かないと、足が食べられちゃうんだよ?」

「えっ!」

「お靴の中にはお化けがいてね、靴下を履かない足をぱくっと食べちゃうよ。りっちゃんの足が無くなっちゃう」

「いやぁーだーぁ」

「じゃあ、どうしたらいいかな?」

「ママー!」


里津は、若葉にしがみついた。

「助かったわ。恩に着る」


若葉は里津を抱き上げると、ソファに座らせるために連れていった。


「さすがの里津もお化けには勝てなかったわね」


朝食の皿を並べていた七輝の母が、くすくすと笑う。


「そうだね」


慎は頷いた。


「これだけパワフルなのに、法事の間じっとできるのかしら?」

「それは平気よ」


母の疑問には、若葉が答えた。


「里津は人見知りだから、知らない人が大勢いるところじゃ大人しいわよ」


慎は途中から二人の話を聞いていなかった。


(流石に、七輝がりっちゃんてことはないよな……。)


七輝は一体、どこにいるのだろう?



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