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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
86/97

Rem:21 交差4

胸を刺すように切ない痛みも、様々な感情が入り交じって優れない気分も、寝てしまえばいくらか和らいだ。


(やっぱりここか……)


いくらか予想していた通りに、慎也は例の夢の中にいた。

ただ夢はいつもと違って、僅かに変化している。

景色やそれに色が無いのは、変わらない。

だが、人数が足りなかった。あの女の人は慎也のいる現実に現れたばかりに、夢の世界から消え去ってしまったかのようにいなくなっていた。

慎也は、いつも女の人が立っていた場所、つまり男の人の真正面に立っていた。

初めて、その顔を見る。そして、驚いた。


「……僕?」


慎也と同じ顔がそこにいたのだ。

もう一人の慎也は、とても優しい目で慎也を映した。


「戻っておいで。いつまでも待ってるから」


何をされたわけでもないのに、慎也は恐怖を感じる。体の中から、何かが引きずり出されそうな……。


「僕は、貴方の恋人なんかじゃない!」


咄嗟に叫ぶ。

すると急にひやりとした感覚に襲われ、慎也は目を覚ました。

冷や汗にまみれて、呼吸も感覚が短い。

椅子に座ってベッドの慎也を見下ろしているのは、安心できる存在だった。


「宿題をするって上がったのに、お寝んねかい?」


新しい冷えた缶ジュースが、大きな手の中でゆらゆら揺れていた。

どうやら先程のは、缶が頬に押し当てられたらしい。


「兄ちゃん」

「大丈夫か?」


蒼はベッドの上で皺になったタオルで、慎也の顔を拭いてくれた。

それから、自分と慎也の額に手をあてる。


「熱はないな」

「へ、平気……」

「ずいぶんと唸されてたみたいだぞ。悪い夢でも見たか?」

「うん」


起き上がり、兄の手からジュースを受け取った。プシュ、とタブを起こす。

それから中の甘い液体と炭酸を喉に流し込んだら、いくらか気持ちが落ち着いた。


「……はぁ」

「いい夢は人に話さない、悪い夢は話して正夢にならないようにする。話せるなら聞くぞ?」

「うん」


慎也はゆっくりと、夢の中で見たことを話した。


「何だ。じゃあ今までお前が恋かもしれないって悩んでいた相手は、自分だったのか」

「顔が僕だった」


膝を抱える慎也とは反対に、蒼は笑い出した。


「同性愛じゃなくて、ナルシストってことか?」

「笑うなよ!兄ちゃん!こっちは真剣なんだから」

「バーカ」


ふて腐れる慎也の頭を、蒼はくしゃくしゃと撫で回す。


「面白おかしく言っているんだから、笑っとけ。笑って悪い気を吹き飛ばすんだよ」

「……でも」

「笑えないって言うならこうだぞ?」


蒼はベッドに乗り出して、ジュースの缶を取り上げて窓辺に置く。

それから、慎也の体に手を伸ばした。


「うわ!ひっ、あひゃひゃひゃ!ちょ……、くすぐったいって、兄ちゃん!やめ……、あはははは!」


くすぐられた慎也は、身をよじって笑い転げる。

ほどほどのところで、蒼は手を離した。


「気分はどうだ?」

「……何かちょっとだけ、スッキリした」


慎也は笑った。


「兄ちゃん」

「ん?」

「ありがと。大好き」

「当然だな」


蒼は優しく笑い返し、腕を天井へ向ける。


「これで次に寝るときは、いい夢だな。良かった良かった、わっしょい!」

「何でわっしょい?」

「いいから。ほら、お前も」

「わっしょい?」

「だめだめ。気合いが足りないぞ」

「わっしょい!」


兄弟の楽しそうな笑い声が、夜の部屋から元気良く聞こえていた。




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