Rem:21 交差3
「遅くまで遊ばせて、すみませんでした」
光と慎は、一緒に玄関先で頭を下げた。
ここが校庭に残っていた子どもたちの最後の家だった。
家に連絡もせずに遊び回っていたから、いくら真っ暗でなくても帰りが危ないし親だって心配する。
お叱り防止の為もあって、一人一人の家に送っていたのだ。
息子を迎えに出た母親は、こちらと同じように頭を下げた。
「こちらこそ、こんな時間まで面倒を見ていただいたみたいですみません。お疲れになったでしょう」
「そんなことはないですよ。久々に楽しかったです」
光はにっこりと笑った。
「ほら。あんたも、お兄さんたちに言うことがあるでしょう?」
「……ありがとう」
母親に小突かれて、少年が恥ずかしそうに礼を言う。
「ちょっと、待ってくださいね」
母親は一旦家に入り、小さな紙袋を持って戻って来た。
「これ、良かったらお二人でどうぞ?」
中から、香ばしくて甘い匂いがする。
「今日焼いたクッキーなんですけど」
「ありがとうございます!」
元気良くお礼を言って、光は袋を受け取った。
それから二人は別れの挨拶を告げ、家を後にした。
「これ、やる」
歩きながら光は、お菓子の入った袋を慎の手に乗せた。
「でも、あの子たちと遊んであげていたのは光じゃないか」
「いいって。お前の姪っ子ちゃんのお土産にでもしな」
「光って、甘いものは嫌いだったっけ?」
「んにゃー」
光は、頭の後ろで腕を組んだ。
「そうじゃないけど。そんな可愛らしい袋のお土産を持ってたら、また拗ねる妬きもち屋がいるからさ。さっきのママさんのは、気持ちだけもらっておく」
「そういうことか」
納得して頷いた。
「そういえば、彼女さんとは仲直りできたの?」
「まーな。構ってほしいのもあったんだよ。甘えたがりだから」
彼が本当に彼女を大切にしているのが分かる。慎は、微笑ましく思った。
「とりあえず下手に謝るだろ?それからお前が友達って信じてもらうのに、身の上話をちょっとな」
光は顔の前に手を立てて、『悪い』と言った。
「君のことだから、大袈裟に盛ったんだろ」
「あははは」
(その笑いは図星か)
「悲劇の物語の主人公に仕立てあげたりするなよ?」
「でも、効果ありだったよ。『そんな純粋な恋心持った人に、嫉妬していた自分が恥ずかしい』って。泣きそうな顔をしちゃって、可愛いったら」
「……ったく」
慎はため息をついた。
「和泉も仲直りに協力してくれるって言ったんだからさ、これは許容範囲内だろ?」
「人をからかう材料の片棒を担いだつもりはないけど」
彼女のご機嫌をとりながらも感情の揺れを観察して楽しんでいるなんて、悪魔か。
「君の彼女に会う機会があったら、言い付けるぞ」
「うわっ!そりゃまずいって。勘弁してくれよ」
慌てる光を見て、慎はにやりと口元を緩めた。
いつも自分は振り回されてばかりだったから、たまにはこうして立場が逆転するのも悪くはない。
でも慎は呆れたように微笑み、光の肩に手を置いた。
「大丈夫。言わないよ」
「さっすが和泉!」
二人の笑い声が重なって、近所に響いた。
一人きりの夜は鬱な気分になることもあったけれど、こうやって久々に会った親友と話すことで、そのストレスからも解放された気がした。
そしてその夜、久々に七輝と会いまみえた。




