Rem:20 夢恋(ユメコイ)6
「あいつの扱いは、心得てるから大丈夫。不機嫌でも、構って甘やかしてやれば機嫌も直る」
「そうなの?」
「気にしないで、お前は戻りな?」
「うん。じゃあ帰るけど、無理そうだったら手伝うから言ってくれよ?」
「おう、サンキュ」
慎は外に出て、扉を閉めた。
「じゃあな」
光は手を振ると車を出し、慎は見送った。
光も結婚していないから、七輝のことを引きずっているのかと思ったけど。
(きちんと気持ちに蹴りがついたんだな。安心したよ。気に入った相手をからかう癖は、ご健在みたいだけど)
みんな、それぞれに前に進んでいる。変わっていく。
(足を動かせないのは、おれだけか……)
ため息をつき、玄関のベルを鳴らした。ドアの鍵の回る音がして開いた瞬間、何かが飛び出して来た。
「なっちゃん!」
ぽふーんとぶつかってきたそれを、受け止める。
頭を二つ結びにした、四歳くらいの女の子だ。
「久しぶり。……りっちゃん」
「こら里津!いきなり飛び出したら、危ないでしょ」
後から来た若葉が、母親らしく叱る。
彼女の姓は旧姓のままだが、もうとっくに結婚している。里津は、若葉の子どもだ。
「お帰りなさい、七輝。ちゃんとお泊り道具持って来たみたいね。偉い偉い」
若葉はにっこりしながら、里津を抱き上げた。
「りっちゃん。なっちゃんに挨拶はちゃんとした?」
「てあいっ!こんにちは!」
「……『てあい』じゃなくて、返事は『はい』でしょ?」
若葉は『めっ』、と里津の頭を軽く叩いた。
「幼稚園の男の子から変なことばかり学んでくるから、困ってるのよ。どうしようかしらね、全く」
それを聞いて、慎は笑った。
「元気が良くていいんじゃないかな」
「良すぎて困りものよ。パワフルすぎて、怪獣みたいなんだから」
若葉は苦笑した。
「立ち話もなんだし、お母さんたちもお待ち兼ねだから入って」
言われた通りにキャスターを持ち上げて、家に入った。




