Rem:20 夢恋(ユメコイ)2
そう言いながら左右を確認し、兄はハンドルを動かして車を運転する。
割と歳が離れているので、兄はもう働いている。
家から通うのに仕事場までそう離れてはいないが、より近い方がいいようで一人暮らしをしている。
結構家に帰って来てくれるので、いつも楽しみにしていた。そして、今回も……。
「今度はいつまで居られるの?」
「そうだなあ。法事もあるし、数日は泊まっていくよ」
今度の法事は、慎也の兄のものだ。
本当は慎也は三人兄弟の末っ子。
でも一番上の兄は、慎也が生まれたときには既に他界していた。
だから、兄がどういった人物だとか、居なくて寂しいとかの気持ちも良くわからない。
でも隣で運転する兄いわく、とても優しい人だったらしい。
その長男の兄の法事が明後日にあり、そのために今回彼は帰って来たのだ。
「そうなんだ」
頷き、大きな手が頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
「どうした?」
「うん。兄ちゃんに聞いてもらいたい話があるんだ」
自分でも密かに抱く、疑惑のこと。恥ずかしくて親には言えないから。
「分かった。じゃあ、一旦帰って着替えたら、おやつでも食いに行くか」
「うん!」
間もなく家に着いて、すぐに出掛けるから車は門の横に停めた。
「ただいま!」
玄関に入り、今から母の声が答えた。
「お帰りなさい」
慎也は風呂場のドアを開け、洗濯機に靴下とシャツを放り込んだ。
二階に駆け上がって鞄をベッドに放り投げ、超特急で着替えた。
ジーパンにTシャツとパーカーを羽織って再び下に行くと、母が出て来た。
「あら、また出ていくの?蒼は?」
「兄ちゃんなら、車の中。今からおやつに行くんだ」
靴に足を突っ込み、トントンと爪先を鳴らして都合の良い履き位置に整えながら答えた。
「そうなの。良かったわね。でも、夕飯が入らないくらいに食べすぎたらだめよ」
「分かってるよ。じゃあ行ってくる!」
「はい。いってらっしゃい」
外に出ると、車の向こうに誰かが立っていた。
屈み込んで、運転席の蒼と話しているようだ。それが誰かわかり、慎也は笑顔になった。
「光兄!」
走って飛び付いたら、反動を利用してくるくると体を回してくれる。
「おうっ!久しぶりだな、悪ガキ!しばらく見ないうちに、またでかくなったな」
「もう悪ガキじゃないよ。高校一年だよ!」
今目の前にいるのは、一番上の兄『慎』の親友だった光だ。
昔は、よくわが家に遊びに来ていたらしい。
かつて、慎に線香をあげに来た際にまだ幼かった慎也と遊んでくれたものだ。
いつだったか慎也が光の膝の上でうとうとしていた時に、おもらしをして以来ずっと、『悪ガキ』と呼ばれている。
しかしもうこの年齢だしと思って言うと、蒼が呆れたように笑った。
「無駄だぞ、慎也。光先輩は未だに俺を『坊』って呼ぶからな。お前は一生『悪ガキ』だよ」
「えー」
「仕返しに、『おじちゃん』とでも呼んでやれ」
「光おじちゃん?」
「誰がおじちゃんだ、このヤロ!」
「ひゃははは!」
光にくすぐられ、慎也は身をよじった。
「蒼坊も余計なこと吹き込むんじゃねーよ」
蒼はただ笑っていた。
「ところで、お前ら今からどっかに行くの?」
「うん。おやつ!光兄も行く?」
「いや、俺は今から行くところがあるから。また後でな」
「どこに行くの?」
「駅だよ」
慎也の頬をむにむにと弄りながら、光は言った。
「お出かけ?」
「お迎えですよね?」
質問には、蒼が答えた。
「ご名答。思い出の中の王子様が忘れられずに、いつまでも待ち続ける姫様をさ。つっても、姫っていうような可愛い年齢じゃねーけど」




