Rem:19 モテ期3
上司が笑いながら正面玄関から出て行き、他の人もそれに続いた。
仲良しを通り越して、モテすぎている感じだ。
無愛想な口調や態度は、どうやら『クール』だと受け止められているらしい。
しかし、セクハラなどの嫌がらせは気づけば助けるので、後輩は一緒に居たがるし慕ってくるというわけだ。
バレンタイン、誕生日、クリスマスなど、各イベントには女子社員からプレゼントが届く。
男性社員より持ち帰りの荷物が多く、いつも羨ましがられている。
これがイケメンな男性社員なら別だが、見た目女性社員な自分が大荷物を抱えて帰る様子はちょっと異様な光景だ。
妙なモテ期が到来中といったところか。
そんなことを考えながら、今日は天気が良かったので近くの公園でお昼を広げた。
「先輩見てください!」
「んー?」
「このりんご、うさぎにしてみました!」
フォークに刺したりんごを見せてくるので、慎は頷いた。
「ああ、可愛いね」
「先輩!私今日、サンドイッチにしてみたんです。良かったらいかがですか?」
「あたしは、おやつにクッキーを作ってきました!」
今日も若い声は、賑やかだ。
(七輝も、遊びに出掛けるのに、たまにこうやって軽いおやつ作って来ていたなあ……)
もう随分と昔になってしまった記憶をぼんやりと思い出した。
「七輝って、料理好きなの?」
彼女の持ってきた手作りのタルトを口に運びながら聞いた。
散歩の途中、立ち寄った小さな公園。
晴れた日に外で食べるのは、いつもに増しておいしく感じられる。
「私、料理はしないの」
七輝は答えた。
「……え?」
てっきり今のと逆の答えを想像していたから、驚いた。
「やっぱり、料理は出来る彼女がいい?」
「や、そうじゃなくて……。こうやってよく、お菓子やらサンドイッチなんかを作ってくるから、好きなのかと」
「出来ないって言っても、小中学校の家庭科の実習で習うくらいのは出来るのよ」
七輝は説明した。
「でもそれって料理が出来るとか答えるには、あまりにもレパートリーが少ないじゃない?」
「ああ、そういうこと……」
「だから、そういうのを除いたらてんでだめなの」
恥ずかしいのか、七輝は少し赤くなりながら言う。
「そろそろ少し頑張ろうかな。慎は、私が料理ができたら嬉しい?」
「……そうだね。だけど、どっちでもいいよ」
良く思われたいがためだけに、『趣味は料理です』と見栄を張ってしまうよりも、ずっといい。
七輝のいいところは、さばさばしていて正直なところにもあるのだから。
「うーん。でも、将来困るんじゃない?」
「その時は、おれも手伝うよ。二人で一緒に勉強すればいい。それに、料理や家事を女の人がしないといけないってわけじゃないじゃん……。とにかく、料理ができないくらいで、七輝を嫌いになったりしないよ」
「嬉しいね。慎がそう言ってくれるの」
七輝は慎に寄り掛かり、肩に頭を乗せた。
「それに、将来のことも考えてくれてるし」
「え?」
「『二人で一緒に』っていうのは、そういうことでしょう?」
はっきり言われるのは、何だか恥ずかしい。体が熱くなった。
「慎の未来に、ちゃんと私が入ってる」
膝に無造作に置かれていた手を、七輝が握った。
「慎」
「ん?」
「私のこと、好き?」
「……どうしたの、急に」
「ただ、聞いてみたかっただけよ。私は慎が好き。私の将来にも慎がいるわ。おばあちゃんになっても、貴方のなたの隣にいたい」
同じ。慎も七輝と同じ願望がある。
「おれは、不器用な人間だから……。きっと七輝以外は、誰も好きになれないよ。この先、いつかそのタイミングが来たら七輝と結婚したい……」
ゆっくりと言ってから彼女を見ると、七輝は微笑みながら目を潤ませていた。
「私も、慎のお嫁さんになりたい。……だから、やっぱりお料理も頑張ってみる」
「無理はするなよ」
「大丈夫。私のお母さんね、料理が好きでものすごく手際もいいの」
「うん」




