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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
74/97

Rem:19 モテ期2

社会人として働き始めてから、その苦痛の気持ちも理解できるようになった。


(女の子って、結構大変だよな……)


電車では痴漢、遊びに行けばナンパや勧誘、仕事ではセクハラ。なかなか疲れることがたくさんだ。

そんな慎も、痴漢の被害に遭ったことはある。

その時、慎にしては珍しく本気で腹を立てた。

混み合った車内に紛れてお尻を触った手をつかみ、次の駅で犯人を引きずり下ろした。


『君、何するのかね?』


脂汗を浮かべながら、わざとわけがわからないと言うように、しらばっくれる相手のネクタイを引っ張った。


「七輝の体に触ったな」


睨み付けながら低く言うと、中年男性はたじろいで後ずさった。

しかし、ネクタイをつかまれているからあまり逃げ出せない。


「おい」


今は女の子の体にいるという状況も忘れ、詰め寄った。


『すいません、すいません。魔がさしてつい……』


慎の険しい空気に、ついに犯人が認めた。


「ふざけるなよ」


右手に力を入れると、犯人の鼻の頭に一発お見舞いをした。

もし七輝本人がこの被害を受けていたらと考えると、背中が冷える。

鼻を押さえて尻餅をついた犯人を、冷ややかに見下ろした。

朝から異様な光景を作り出した二人に、改札口への階段に行く人々が何事かと視線を向ける。

犯人は真っ赤な顔をして、地面に頭を垂れた。


『もうしません。すいません。どうか許してください』

「貴方にも……、家族はあるだろうから、今回だけは目を瞑ってあげます」


慎は、ため息混じりに言った。


「でも、次はありませんから。二度とするんじゃない」

『はい……』


その日、慎は少し会社に遅れた。

理由が理由だったので、お咎めは無かった。







実際に女性として生きてみることによって、女性ならではの悩みも身を持って知った。

だからできるだけ、それらに立ち向かうようにしている。

七輝の体でいても中身は男だし、女の子が傷ついているのを放っては置けない。

とは言え、人付合いを億劫に感じる性分が直ったわけではなく。


普段は、無愛想とも取れる会話のやり取りだ。

それなのに、なぜだろう?ある疑問は、常に隣にある。

社内に、昼の時間を告げるチャイムが鳴った。同じ部署の女の子たちは仕事の手を止め、席を立った。そして。


「和泉先輩ー」

「先輩!」

「センパーイ」


気がつけば、机の周りに何人も後輩がいる。


「お昼に行きましょ!」

「今日はどうしますか?」

「……えーと」


慎は椅子をくるりと回転させて、後輩たちに向き合った。


「この仕事が片付いてからお昼にするから、君たちは先に行っていてくれないか?」

「じゃあ、邪魔にならないように待っています!」

「お手伝いします」

「……ふう」


慎はため息をついた。どうあっても、一緒に居たいらしい。

これではまるで、マネージャーかファンクラブのようだ。


慎はまたパソコンの正面に座り、キーを叩き始めた。

整理したデータを印刷した後、資料の片付けやファックスを流す処理は後輩がしてくれた。

おかげで仕事がきりの良いところまで進むのに、そう時間はかからなかった。

机を片付けて部屋を出たら、外に食事に行こうとしている上司や営業と鉢合わせた。


「お前ら、またそんなに大勢で昼か?いつもいつも同じメンバーで、よく飽きないな」


若い営業が、からかい半分に言う。


「別に好きなんだからいいじゃないですか。あたしたち、和泉先輩と一緒がいいんですから」

「……ふーん。ま、好みは人それぞれだけど」

「和泉くんのおかげで、この部署の女の子はみんな仲良しだなあ」



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