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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
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Rem:19 【成人編】モテ期

黒いナースシューズで、社内を移動する。


腕には資料の挟まったファイル数札、事務服も清潔に着こなしている。

ブラウスは真っ白、胸元のリボンは長さが左右同じ。

背筋を伸ばして落ち着いて歩く姿は、『凜』という表現が良く合う。


今手元にある仕事量から考え、今日はいつ頃退社できるだろうかと考える。

そんな折、前方で若い女子社員が、男性社員の上司と話しているのが目に入った。

彼女は、入社して一年くらいの後輩だ。話すにしては少し距離が近い。

気にはなったが、何も言わずに通りすぎた。


二人の少し先、営業の部屋のドアを開ける。


「お疲れ様です」


入って挨拶をすると、たまたまそこにいた数人の営業と彼等の上司が挨拶を返した。


「課長、お探しのファイルが見つかりました。お客様の前の履歴はこんな感じですね」


付箋を貼っていたページを開き、上司に見せた。


「お、ありがとう。悪いね、忙しいところ」

「……構いません。課長の営業帰りの手土産に、期待しますから」

「厳しいなあ」


冗談を受けて、上司が笑った。

もう入社してずいぶんと経ったから、こんな光景も珍しくはない。


「それはさておき、また何かあったら呼んでください」

「ああ。また頼むよ」


頭を下げると、側を離れた。

営業の部屋から出たら、後輩はまだ廊下に居た。こちらと目が合うなり、困ったような顔をする。


「……ふむ」


ため息をつき、二人の方へ歩いた。


「君は仕事を覚えるスピードも早いし、期待しているよ」


同じく、まだ後輩に構っている上司の手が上がった。

少し早歩きになり、その太い手が彼女の肩に触れる前に腕をつかんで止めた。


「うっわ。びっくりした」


上司は、いきなり乱入してきた顔に驚く。


「褒めてやる気を出させるのは有り難いですが、この手のおイタはいけませんよ」


きっぱりと言った。


「貴女も、いつまでも油を売らない。仕事に戻りなさい」


早くここから離れるようにという意図を後輩はきちんと受け取った。


「すみません」


ぺこりと頭を下げて去る後ろ姿を、上司は残念そうに見送った。


「たまには、息抜きも必要だよ。話すくらいはいいじゃない」

「……真摯に仕事に向かう姿勢の躾も、大事です。何なら部長も悪い手の癖を教育してあげましょうか」


にっこりと笑って言えば、相手はこそこそと逃げ出した。


「いや、今は遠慮しておこう。そうだ、仕事の途中だった」

「嘘ばっかり」


はあ、とため息をつく。


(部長のパソコン、トランプゲームの画面を閉じ忘れてたままだったくせに)


自分も仕事に戻るのに階段を降りた。入口で先程の後輩が待っていた。


「和泉先輩ー!」


両手をぱたぱたと動かしながら、駆け寄ってくる。


「助かりました。ありがとうございます!」

「……あの部長は人当たりが良いから騙されるけど、さりげなく体に触ってくるから気をつけなさいと言っただろ?」

「すみません。話しかけられるのを無視できなかったんです」

「まあ、確かに。……でも適当な理由をつけて、放っておきなさい。あれはただの暇人。こっちは忙しいんだし。遅くまで会社に残りたいの?」

「それは嫌です!でもそうなったら、和泉先輩にご飯をご馳走になっちゃおうかな?」

「……却下」


和泉七輝――その中の住人の慎は、ドアを開けて後輩と一緒に戻った。

彼女は自覚があってか無くてか、甘え上手だ。

だから人に可愛がられやすく、それは貴重な能力だと思う。

だが、たまにその力が仇になることもある。


男性社員はそのつもりがなくとも、ボディタッチを嫌がる女子社員は意外に多い。




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