Rem:16 優しくも残酷な嘘
光は病院で点滴を打ち、迎えに来た彼の母と慎と一緒に組長と別れて家に帰った。
「ごめんなさいね。光のことを見ていてくれたんでしょう」
光の母が、慎にお茶を出してくれたときに言った。
「ここ何年も風邪なんか引かなかったのに、珍しいこともあるものだわね」
それだけ言って彼女は部屋を閉め、慎に留守番を頼んで夕飯の雑炊の材料を買いに出て行った。
光は薬が効いているのか、熟睡していてしばらくは起きそうにない。
それを見ながら、慎は何だか無性に悲しくなった。
椅子から立ち上がって、暗くなって行く町を眺める。ここからは、七輝の家も自分の家も見える。
「……はあ」
窓に手をおいてため息をつき、窓に映った自分の姿――七輝と目が合う。
「七輝……。おれは、何て残酷な人間だったんだろう」
七輝は、悲しそうな顔で俯いた。
『違うわ……。私、気がついてたの。……本当は、光の気持ちに』
慎と合わさった手が震える。
『気づけないほど鈍感じゃないわ。だからいつかは、こんな日が来るんじゃないかと思ってた』
「……七輝」
『光は自分の気持ちを伝える前に、私が光を友達としか見られないことを知ってた。だからずっと黙ってててくれた』
でも、ちょっかいをかけるように見せ掛けて邪魔をしてみたり。七輝に甘えたり。
無意識に起こす行動に、隠し切れない部分もあったから。
『光は慎の親友だし、第一私が一緒にいられて楽しかったし。光が諦められるように、突き放すことも出来なかった』
そちらの方が残酷な仕打ちだとわかっていても。
『光の海よりも広い心の優しさに、甘えてしまったの。今回、体調を崩すことで保っていたはずのガードが揺らいじゃったのね』
七輝はため息をついて光を見た。
『ごめんね……。ひどい女で……』
彼女はきちんと気づいていた。
蚊帳の外にいたのは、慎だけだったというわけだ。情けなくて、泣けてくる。
光の行動を好きな者に対するいつもの愛情表現として、一まとめにしてしまっていた。
「あれだけ長く近くにいたのに、おれは気づこうともしていなかった」
慎が言うと、七輝は微笑んだ。
『それは、光が一枚上手だっただけだと思うわよ』
「そうかな……」
『妬きもちも、普段慎をからかうときの行動にわざと被らせていたもの』
(光……。君は、この世で一番かっこいい男だよ)
「七輝」
『ん?』
「おれはいっぱい、光を傷つけたと思う。……だけど、親友を止めたくないんだ。残酷かな?」
『残酷。でも光だって、私たちとの関係を壊したくなかったはず。お互いに秘密にしていたことがばれただけで、何も変わってないわ』
「ねえ、七輝。君はどうなの?本当に死んでいたのがおれなら、君はどうした?」
その答えを、光にあげようと思うんだ。




