Rem:15 『好き』のカタチ ―光の秘密―4
膝を着いて光の顔の前で手を振ったら、手に熱い吐息がかかった。
慎は即座に額に手をあて、反射的に引っ込めた。
「あつっ……!」
(まずい!熱を出してるんだ)
そういえば最初に教室で光と話しているときも、耳にかかる息が熱かった。
授業中に寝ていることは多々あっても、全部は無い。
それなのに、今日は一日を通して机に伏せていた。
おかげでファン隠し撮りの恰好の的になっていたが……。
(どうしておれはこう、いつもいつも気が付くのが遅いんだよ)
自分に怒りを感じるが、反省も叱咤も全部後だ。慎は肩を揺さぶった。
「光!大丈夫か?」
「……っう」
かろうじて小さな呻きのようなものは聞こえたが、苦しそうに汗をかいて少し動いただけだった。
慎はとりあえず、光のブレザーとカッターシャツのボタンを外した。
ハンカチで汗を拭きとり、ロッカーから体操服の入った袋を取り出し、光の頭を持ち上げて下に敷く。
「……んあ……、ず」
光が緩く頭を振って、何かを訴えた。
「何?」
床に両手をつき、耳を近づけて聞く。もう一度光が口を開いた。
「み、……ず、水」
「分かった。喉が渇いたんだな」
今日は家からペットボトルに入れたお茶を持って来ていたが、それはもう温い。
慎はそのペットボトルを持って廊下に出て、冷水機に中身を全部開けた。
代わりに、空の容器に水を汲む。
四分の一ほど溜まったところで水を止め、今度はハンカチを濡らして絞り、二つを持って教室に戻った。
「光、水持って来た」
まずハンカチで新たな汗を少し拭い、額に貼り付けた。次に熱い首に腕を差し込み、頭を支えて光を抱き起こす。
大きく成長した分だけ力はいるが、首の座らない赤ん坊を抱き起こす要領だ。
「飲んで」
ペットボトルを口に添えてやるが、うまくいかずに零れてしまい、その上に喉に入って光は咳込んだ。
「げほっ、ごほっ……、けほ……」
「光」
もう一度ペットボトルを持って行くが、嫌がって顔を背けてしまった。
「み……ず」
でも喉の渇きは、相変わらず訴えてくる。
(多分直接移せば、苦しませずに飲めるんだろうけど……)
慎は唇を噛む。
それをするには、七輝の体を借りなければならない。
心は痛むけど、きっと七輝がここにいても同じことをするような気がする。
(ごめん、七輝。光のためなんだ。君の唇を貸してくれ)
覚悟を決めて水を含み、光に口付けて流し込んだ。予想通り、光の喉が動いた。
「まだいる?」
「も……っと」
「分かった」
光がストップを出すまで四、五回同じことを繰り返した。
満足したのか、光の呼吸がわずかに落ち着いたように思える。問題は、この後だ。
立つこともままならない光を背負って帰るのは、はっきり言ってかなり厳しい。




