表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
6/97

Rem:3 雨と祖父と白い背中

「あふ……」


手もあてずに大きなあくびをしていた時、ノックもなしにドアが開いた。


「これ、母さんから」


蒼は、おにぎりが乗った皿を差し出す。


彼の手にも食べかけのおにぎりがあり、もごもごと口が動いている。皿の中の差し入れは、微妙に皿の中心より片側に寄っていた。

おまけに空いた場所には、曇ったガラスのような小さな水滴がある。


「……ありがとうって、母さんに言っといて」


慎は受け取り、机に置いた。それを見るなり、蒼が机の脇に手をついて身を乗り出す。


「いやいやいや。ちょっと待て!今は突っ込むところだろ、お兄さん!」

「口の中にものを入れたままで喋るなって、いつも言っているだろ」


ご飯粒がノートにくっついたのでティッシュでつまんで捨て、慎は再びシャープペンを握った。その手が動く前に押さえ付けられる。


「夜食がつまみ食いされたのに気づてるんだろー!数が足りないって」


慎はため息をついて、いたずら好きな弟を見た。


「………」

「お願いだから、ノーリアクションは止めてください」

「蒼が食っちゃったんだから、今更どうしようもないだろ?」

「そりゃそうだけど……」

「それともおれに、怒ってほしかったのか?」


呆れたように困ったように笑いながら、慎は彼を窘める。


「お前もお子様じゃないんだから、ちょっかいで気を引こうとするのは卒業しろな?」


蒼が何か言おうと口を開く前に、遠くから救急車のサイレンが聞こえた。

そんなのは珍しいことでもないのに、蒼は言葉を続けることなく黙りこくる。

やけに耳につくその音はだんだんと近付いて近所に響き、鳴り止んだ。

静かになり、蒼が何かを探るように険しい顔をする。それから急に慌て出した。


「やべっ!母さんが上がってくる!」


いつも勉強中の慎の邪魔をして叱られているから、やたら音に敏感らしい。慌てるのも無理はない。

言われてみれば確かに階段を上がる足音がする。蒼はその場で何度か足踏みをして、慎のベッドに飛び込む。


「まこ!俺は隠れるから、母さんを適当にごまかしてくれ!」

「無理だろ。そんなに不自然に膨らんだ布団……」


蒼は聞いていないらしく、頭から布団をかぶり、同時にドアが開いた。


(あーあ、また怒られるぞ)


呑気に構えていた慎の予想に反し、母は蒼には何も言わなかった。

気がつかない、あるいはそんな余裕がない、といった方が正しいだろうか。


「ま、まこ」


慎は母の様子がおかしいことはすぐにわかった。顔が蒼白になっている。


「母さん?」

「あ、あのね……。まこ」


ゆっくりと、子機が差し出される。


「七輝ちゃんが」


嫌な感じがして、慎は珍しく引ったくるように子機を取った。


「も、もしもし!」


耳にあてたら音楽が流れた。急いで保留音を切り、慎は再び話す。


「もしもし」

『ああ、慎くんかね?』


向こうから、男性の声が答えた。


「はい、こんばんは」

『七輝の父です。実は七輝が……』


母もいつの間にかベッドから顔を出している蒼も、黙っているから静かだ。

だからだろうか。七輝の父の言葉がやけに、耳にはっきりと聞こえた。



――『七輝が倒れた』――



さっきの救急車の音は、そうしたら――。


「……すぐに行きます」


慎は掠れる声で七輝の家に向かう旨を伝え、机に子機をおいて椅子の背にかかったパーカーと机の携帯を取った。そして、部屋にいた二人には目もくれずに飛び出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ