Rem:14 全身全霊をかけて愛する君を守る5
けれど二つの手が触れ合う寸前、川の水に変化が起きた。
ピキピキピキ……パキン!一瞬にして凍りつく。
「!」
七輝は驚いて、反射的に手を引っ込めた。そしてその目の前で変化は更に続く。
ミシミシと音がすると思ったら川に亀裂が入り、大きく裂けた。
「そんな……!」
亀裂からできた奈落のような深く暗い谷に、割れた氷が落ちていった。
(これじゃあ、向こうに行けない)
『危ないわ。その暗い底は『地獄』。誤って入ったらなかなか出られない』
顔を上げたが、『向こう』は無かった。七輝が通って来たはずの道は跡形もなく消え、そこにはあの深い霧だけがあった。
『ただ、ここからでも貴女は戻れない。進めても、戻ることは許されない』
狐の女性からもう一度、言い聞かせられる。七輝は奈落の底を覗き込みながら、涙を流した。
「まこっ……、慎――――っっっっ!」
いくら泣いても、悔やみ切れない。後悔先に立たずと言うが、七輝にとってこれほどの後悔は無かった。
『もう戻れないなら、いくらあがいてもどうしようもなかった。その現状を嫌でも受け入れるしかなかったわ』
話し終えた七輝は、悲しみに暮れる皆の様子を見て体ごと慎の方を向いた。
『だからと言って、すぐにあの世界を進めないわ。心残りがあるから』
「心……残り」
慎の呟きに、七輝は頷いた。
『慎はものすごく繊細。だから、私が戻れないから泣くって分かった』
案外男の子は女の子よりもピュアなのかもしれない。七輝は慎と付き合い出してから思った。
『家族のことも気になったけど、貴方を置いていくことが一番の心残りだった』
澄んだ瞳が涙に縁取られ、時折光る。
『本当に頼れる人の前でしか、弱みを見せない。我慢するから……。ともすれば、誰にも慎の傷の深さは分からないかもしれない』
七輝は胸を押さえるように、手を置いた。
『私が傷を癒してあげられればいいけど、皮肉なことにその傷を付けたのは外ならぬ私』
傷ついた貴方の側に傍に居たいのに、許されない。
これは、生きることを投げ出した自分への、罰なのだろうか……?
溜め切れなくなった涙が、はらはらと頬を伝う。
『私の願いはただ一つ。自らがつけてしまった傷が、新たな傷を呼ばないこと』




