Rem:14 全身全霊をかけて愛する君を守る4
(でも私、何だか怖い……。沈んで溺れたりしたら、助けを呼ぶ人もいないし……)
戸惑っていたら、向こう岸からこちらに向かって橋が現れて繋がった。石造りのそれなら丈夫そうだ。
七輝はその橋を渡り始めた。その間にも狐は少しずつ進んでいく。気持ち駆け足で、薄茶色の姿を追った。
「待って!」
(見失ったら、道がわからなくなっちゃう)
足が向こう岸に着いたときだった。微かに遠くから、誰かの声が聞こえたのは。誰かに呼ばれた気がした。
「?」
七輝は振り返り、声に耳を澄ませた。
『――負けるな七輝!しっかりしろ!戻って来い!七輝!――』
心が揺さぶられる。戸惑っている間に、声は更に大きくなった。
『――七輝、聞こえるか?皆待ってる。戻れ。七輝、七輝、なつっ……!――』
(分かる。私を呼ぶ声。貴方のこと。どうして、一時でも忘れていたの)
「慎……!」
戻ろうと一歩を踏み出して、驚愕した。
「橋が!」
こちらとあちらを繋いでくれていた橋が、跡形もなく消えていた。
『もう、無理よ』
背後から落ち着いた声がした。
そちらを向くと少し離れた場所に、白い着物を来ている女性が立っている。
艶やかな黒い髪は肩の辺りで緩く結わえられ、美人と呼ぶに相応しいその顔の目は細く狐を思わせた。
「私、戻らなきゃ」
呼んでいる。慎が必死に。狐目の女性は、ゆっくりと頭を振った。
『貴女はもう、こちらに足を踏み入れてしまった』
「さっきまでは、橋があったわ!」
『だけど今はもう無い。貴女の方のために、もう一度橋が繋がることはない』
七輝は目の前が真っ暗になった。
(嘘……でしょ)
『貴女があちらに戻れたのは橋がある間。こちらの土に触れる前まで。一度入ったら、あちらへはもう二度と戻れない』
「そんな……。どうしたら」
七輝は泣きそうになって、地面に膝と手をついた。
(どうしても、戻りたい)
そう思いながら近いようで遠い向こう岸を見つめていたが、あることを思い出した。
ここまで導いたあの狐は、この川を普通に渡り切った。怖いけど橋が無いのなら、渡る手段は川を伝うしかない。
七輝は恐る恐る、水面に手を近づけた。
水中の様子は透き通さなくても、水面には水上のものが映るらしい。水面にも華奢な手が映って、二つの手が近づいた。




