Rem:14 全身全霊をかけて愛する君を守る3
『七輝、聞こえるか?皆待ってるから、戻れ。七輝、七輝、なつっ……!』
ずっと七輝を呼び戻そうとする声が、やけに大きく響く。
『解放されたいって思ってしまった……。あの瞬間、きっと生きるのを諦めたの』
七輝は顔を覆って、頭を振り乱した。綺麗な髪が、左右に揺れる。
『ごめんなさい。こんなことになるなんて』
「……いや。おれがもっと早くから、七輝を呼んでいたら。意識を無くす前に。寝ている君の側で」
彼女の父親にだって最初に、七輝を頼まれていたのに。
守れなかった。七輝が間違ってもこの世界とは違う場所へ連れていかれないように、引き止めておけなかった。
慎は拳に力を込めた。すると七輝は言った。
『そんなことないわ。慎の声はちゃんと届いたのよ』
「え……?」
答えは予想していないものだった。
『戻っておいでって何度も私の名前、必死に呼んでいたでしょう?』
遅れてだけど、ちゃんと耳に届いた。
『貴方の声で、私は自分の過ちに目を覚ましたの』
歳老いているわけでも無い。待っている人だっている。戻らなければならないと気づいた。
『でも、戻れなかったの』
いつの間にか、引き返せないところまで来てしまっていたのだ。
苦しみと恐怖にもがいていたのは、覚えている。でも、段々と意識が遠退いて行った。
気がついた時、七輝は霧が立ち込めた靄の中に立っていた。
「ここは……?」
先も後も見えない。どちらに進めばいいか迷い、立ち尽くしていると。
コーン!どこかで何かが鳴く遠吠えが聞こえた。しばらくして霧の中から狐が現れた。
「何でこんなところに……」
七輝と狐は、見つめ合った。
「あなたも迷ったの?」
しゃがんで手をさしのべたのに、狐はぷいと背を向ける。
そして一度七輝を振り返り、歩き出した。
立ち上がって、七輝の足も自然と小さな姿を追う。狐について進み、すぐに景色が開けた。辺りは一面の花畑だった。
「綺麗……」
裸足の足に、柔らかな感触が心地よい。狐もその花の間を進んでいた。
静かな花の道を歩いていくと、川が流れていた。
流れは静かでキラキラと煌めいているのに、中が見えない。狐は臆することなく、ジャンプをして川を渡る。
その体は沈まずに、魔法のように水上を走った。足が水面に触れる瞬間、そこから少しだけ水が撥ねる。




