Rem:13 海で傷心の背中を追う6
「何やってるのよ、この痴女!目を覚ませ!」
持っていたバケツを両手で抱え、七輝は慎ごとギャル達に水を浴びせかけた。
「キャ――!」
二人は悲鳴を上げてずぶ濡れになった後、驚いて固まっていた。
「う……。けほっ、ごほっ!」
勢い良く襲って来た水が鼻に入り、咳込んだ。
ギャルが呆気に取られている今がチャンスだ。慎は這うようにして、拘束から抜け出した。
「た……、助かった……」
お礼を言おうとして七輝を見たら、彼女の目が吊り上がっている。
「七輝……?」
恐る恐る名前を呼ぶと、七輝は空のバケツを地面に放り投げた。
「慎のバカ!最低!大っ嫌いっっっ!」
それだけ叫び、七輝は慎の前から走り去った。
「七輝!」
慎は慌てて立ち上がる。
「ありえない!超びしょびしょなんだけどー!」
「かなり驚いたし。あの女、凶暴すぎ!この服はどうしてくれんのって感じ!」
やっと我に返り、愚痴を言い始めた二人を無視して七輝の背中を追った。
「七輝!七輝!」
普段からすれば珍しく大きな声で必死に呼んでいるというのに、彼女は振り返りもしない。砂に足を取られ、走りにくそうにしながらも止まらなかった。
「待って!」
もう一度呼び止めた瞬間に七輝は転び、押し寄せた波によって濡れた。
追い付くかと思いきや、また七輝は立ち上がって慎から逃げる。
ふらふらと立ち上がるときに、七輝は腕を上げ、同時に鳴咽らしき声も聞こえた。
(泣いてる……?)
再び走ってからは距離が近くなったのか、泣いているのがはっきりとわかった。
「……っく、………ふ、ううっ」
波打ち際を走る足は徐々に海よりになり、それにつれて歩みに変わる。
しばらくすると、七輝は疲れ切った様子で海の中に膝を落とした。
「……はあっ。七輝」
慎も夢中で追い掛けていたせいか、足が海に浸かっていた。
「何で……、追い掛けて来るの?」
「……え?」
「慎くんは、私たちみたいな高校生よりも、さっきみたいなお姉さんがいいんでしょ」
「そんなこと……」
「あるでしょ!」
七輝は背中を向けたまま、大きな声を出した。
「まんざらでもなさそうだったじゃない。あの人たちがベタベタ触ってるのに抵抗もしないで。そんなに良かった?」
確かに驚いて、声を上げてしまったが……。
「違うよ。良くなんかない。良くはないけど……、くすぐったかった」
今の七輝は動揺が激しく、きっと普通に説明したのでは届きにくいだろう。




