Rem:9 屋上2
畳まれたブレザーの上で腕組みをし、頭を乗せている。
フェンス際、シャツのまま気持ち良さそうに寝ている姿。
(……おれ、だ)
その横にブレザー姿の少女が寄り添い、手と膝を床について寝顔を覗き込んでいる。
「まーこーとーくん」
「うん……?」
目を開けずに答える。
「起きてくれたっていいじゃん」
七輝は口を尖らせた。
「じゃないと、キスしちゃうぞ?」
「!」
驚いて、慎は瞬時に目を開けた。
「あはははっ!本気にしたぁ」
慌てた姿を見て、七輝が笑う。
(からかわれたのか……)
「寝込みなんて……。エロい、七輝。男じゃあるまいし」
慎は、あくびをしながら言った。
「違うもん。ちゃんと女の子よ」
「うん」
「ところで、私の話聞いてた?」
「うん?……んー」
「その生返事は、また聞いてなかったな?めっ」
七輝は、ぷうっと頬を膨らませた。
「ごめん。怒った?」
肘をついて上半身を起こし、七輝の顔色を伺い見る。
「別に」
彼女は立ち上がった。
「話を上の空で聞いていました。……なんてことは、初めてじゃないし。たまには聞いてくれたっていいじゃないとか、寂しいとか全然思っていませんから」
(……思ってるんだ)
慎は苦笑した。七輝はこんな子だ。本当に嫌なことは、溜めておかずにはっきりと言う。
ストレートではなく口調もそこまで怒るわけでもなく、でも上手く言い回してくれる。
微妙な厭味が入るときもあるが、溜めておいて爆発してこじれるよりは余程いい。
それにこういうときに見せる、頬を膨らませた拗ねた表情もまた可愛い。
七輝に見とれていると、あることに気がついた。
「なつっ、ちょ……」
「なあに?」
急に慌て出した慎の様子に、七輝は背けていた顔を戻した。
「スカート!中!」
慎は目を腕で隠して、指摘をする。わずかな風に煽られて、スカートが揺れる。
慎は寝転がり、七輝は立っている。彼女は広がるプリーツを見て、慎の言いたいことを悟り、スカートを押さえた。
「慎くんのエッチ!」
(ええ?)
「それは不可効力……」
「見ないでったら!」
「うわぷっ?」
弁論をする為に思わず腕を退けたら、顔に何か落ちて来て真っ暗になる。
「そのままじっとしていて」
「……はい」
言う通りに返事をし、すぐに視界は明るくなった。
七輝は座っていて、膝にブレザーをかけていた。成る程。先程慎に投げ付けたのは、この上着だろう。
別にわざとではないけど、謝った。
「ごめん」
「……見た?」
「……」
黙っていると、七輝が身を乗り出してもう一度尋ねた。
「見た?見てない?」
正直捉えたのは一瞬で、それも色が分かったくらいだがそれでも見えたうちに入るだろう。
「み、見えました……」
怒られるかもしれないと身構えたのだが、予想とは逆に七輝は笑った。
「正直だね。『見えそうで見えなかった』とか、言い訳はいろいろあるのに」
「……怒らないの?」
「君のせいじゃないでしょ?それに、素直に話してくれたから。でも、誰にも言っちゃダメだからね。……光にも」
「言わないよ」
少し顔を赤くして、慎は言った。またブレザーに頭を乗せて寝転がり、七輝が首を傾げて聞いた。
「最近いつも、ここで寝てるね。どうして?」
「ん?……気持ちいいからかな。暖かさとか、風の具合とか」
慎は一度起き上がり、もう少し広めにブレザーを畳み直してそれを叩いた。
「やってみたら、わかる」
「え?」
「寝ていいよ」




