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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
24/97

Rem:8 『不思議くん』

ペラ……。時折間隔のズレはあるものの、本のページがめくられていく。

一階ロビーのソファに座り、慎は本を読んでいた。

あの合コンの騒がしい空気の中に無理矢理身を置くよりは、こちらの方が落ち着く。

それに読み掛けのこの内容が気になって、仕方なかったのだ。


「どこに行ったのかと思ったら、まーた本を読んでるんだ」

「ん……」

「面白いの?」

「……?」


話し掛けられたことに無意識に相槌をうってから、自分は誰に返事をしているのかと気づく。

慎は驚きのあまり本を取り落としそうになり、慌てた。


「反応が遅いなあ。よっぽど集中してたんだねー」


慎の鞄を挟んで隣に腰を下ろしていた女の子が、小首を傾げてにこっと笑う。


「こんにちは、不思議(ミステリアス)くん」

「ミ、ミス……?え?」

「いつも遠くを見つめている感じが、つかみどころなくて素敵なんだって。一部の子がそう呼んでいるの」


(へーえ……。人付合いを疎遠にしてても、見ている人は見てるのか)


慎はぼんやりと思った


「でもそんなものは、私にとってどうでもいいんだ」

「え……」

「噂や自分の妄想で飾り立てた姿じゃなくって、私ならきちんと自分の目で確かめて触れた、『瀬谷慎』という人が知りたいな」


彼女はにっこりと笑った。


「知ってるよ。君は、本が好きなんでしょ?今度は何の本を読んでるの?」


慎は光のようにがっつりとスポーツなんかしないから、男の子にしては割と色が白い。

でも、彼女はもっと色が白かった。

透き通るような色の手が、慎の膝から本を取り上げる。


「何々?『僕が彼女を殺した理由』。これ、ミステリー?」

「いや……。ミステリーとは、また違うかな」

「じゃあ、グロテスクだったりする?」


いきなり引き気味になって、彼女が聞いた。


「……グロテスクではない」

「良かったー。私も本はたまに読むけど、血がいっぱい出たりとかいうのは苦手なんだ。怖いよね。赤毛のアンとかは好き」

「童話……」

「やっぱり……。この年齢になってからは、変かな?」


少し顔を赤くしながら華奢な指を唇にあて、小さな声で恥ずかしそうに言った。

やや俯いたせいで自然と上目使いになったその表情に、何だか慎の心は少しドキリと跳ねた。


「や……。別におかしくはないんじゃ。好みは人それぞれ自由だし……」

「本当?そう言ってくれると嬉しいね!」


恥じらいの表情は、瞬く間に笑顔へと変わる。


「……」


慎は無意識に、その満開のひまわりのような笑顔に釘付けになった。


「瀬谷くんは、やっぱり優しいね」


(やっぱり?)


さっきからの発言といい、彼女は前から自分を知っていたのだろうか。

まあ、よく見てみれば確かに同じ高校の制服だから、知られていても不思議はないが。


「君は……」


慎が呟くように言うと、彼女は微笑んで首を傾げた。


「さっき、同じ部屋にいたよ。それから、同じクラスだったこともある。中学二年生の時に」

「えっ!」


それは驚いた。失礼だとは思うが、全く記憶にない。

何とか思い出そうと必死に記憶を辿っているのを見て、彼女は声を立てて笑った。


「あはははっ。瀬谷くんらしいね。覚えてないんじゃない?」

「……はい」


正直に頭を下げる。


和泉(いずみ)七輝(なつき)です。和のついた和泉に、七つの輝きって書くの。私は瀬谷くんのことを、ずっと見てたよ」

「……何で?」

「『何で?』って……そう来たか。そうだねぇ。理由としては、一部光の感じたことに似てる。興味をそそられたっていうのかな?」

「光と知り合い?」

「うん。中学校になって両親がマイホームを買ったから、引越ししたんだ。たまたま光の家と近くて。一緒に帰ったのがきっかけで、話すようになったの」


と言うことは、慎の家からも近いということになる。




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