Rem:7 光4
「なぜこのようなことになっているのか、わかりますね?」
「はい……」
普段は優しい担任が珍しく怒っている。
授業が始まるなり光と慎だけ廊下に出され、お説教を受けていた。
「では二人は先生が呼ぶまでここに立って、待っていて下さい」
「はい」
二人が頷くのを確認し、担任は教室に戻って行った。
「……」
「……」
黙っているので、中で担任が話している内容が聞こえてくる。
中は中で、誰も光たちを止めようとしなかったことを怒られているようだった。
しばらくはその話に聞き耳を立てていたが、やがて光がクスクスと笑い出した。
「ははっ」
「……」
そんな光を、慎は妙な顔付きで見ている。
「結局怒られちまったけどさ、何だか楽しかったよな」
光の言葉に、慎は肩をすくめた。誰も見ていないからか。それとも、もう諦めたのか。
わずかながらも、慎は反応を返してくれた。
「お前は?」
光は肘で、隣の腕をつつく。
「いいじゃん。誰も見ていないんだし。楽しかったか?」
「……」
慎は天井をじっと見つめ、しばらくしてから光の顔を見た。
そしてついに。
「……そうだね」
「!」
頷きながら、慎が笑った。やっとまともな反応を返してくれたことで、嬉しくなって更に問い掛けてみる。
「ところでお前は、立たされたのは初めて?俺はこれで三回目」
「……だろうね」
「何だ。普通に会話できんじゃん」
「だって君、しつこいんだもん。逃げたらまた、追い掛けて来るんでしょ」
「お前が喋るまでな」
「また立たされたらたまらないからね」
「いいじゃんか」
「……やだよ」
ここまで話して、また二人でにやにやしていたら声がかかる。
「さて。お話は終わりましたか?」
いつの間にか担任がドアを開けて、こちらを見ていた。
反省をするために教室の外に出されたのに、私語をしていたなんてまた叱られてしまう。
二人がたじろいでいると、担任はにっこり笑った。
「仲良くなったのはいいことね。さあ、中に入って」
何故か、お咎めはなかった。
先に教室に入ろうとする慎の手をつかみ、気になっていることを囁いた。
「なあ。昨日先生に渡した手紙に、何て書いたんだよ?」
慎は振り返って、にやりと笑いながらきっぱりと言った。
「やだ。教えない」
そう言ったものの、後日、学級新聞に慎の書いた手紙が載ってあっさり内容が分かってしまったのだった。
『校長先生へ
飼育小屋のうさぎがケンカをしているみたいです。耳や体がかじられたりしています。
可哀相なので、何とかしてもらえませんか?』
「……まあそんなわけで、俺とまこはその時からずっと続いているわけ」
「逃げられても追いかけるとか、ウケるんだけどー!」
「てか、二人とも超いい奴じゃない?」
「だろ?特に俺が」
「自画自賛!」
光は親指を上に立てて、笑った。
「でも何で、うさぎはケンカしてたんだろーね。雌の取り合いとか?」
「違う違う。小屋と遊ばせる庭が狭かったんだよ。縄張り争いが起きたんだな。でもまこのおかげで、翌年に飼育小屋は改装されたんだぜ」
「へえ」
気がつけば女の子たちの意識は、完全に光一本に集中していた。
いつの間にか同じ場にいた男の同士たちは、置き去り状態。
光を合コンに呼び出せれば女の子の出席率は上がり、仲良くなれる。
が、結局お気に入りは光になってしまうので、カップル成立の率はあながちいいとも言えない。
それでも光を誘うだけのメリットが、彼らにはあった。
女の子たちがどんなに気に入っても、光自身抜け駆けはもちろん、告白を承知したこともなかったから。
それはメリットと共に、彼らの最大の謎でもあったのだ。




