Rem:6 奇跡のはじまり3
やっと全員が向かい合って座り、自己紹介から始まる。
男女の数は、それぞれ五人ずつ。まず、こちら側の男子から最初に始まる。
トップバッターは先程慎たちを迎え出た幹事、それから光だ。
「諏訪本光。部活はサッカー部。彼女は募集中ね」
「え?彼女いないの?」
「いませーん」
女の子側からの質問に、光はVサインで答えた。そして流れを慎に移す。
「じゃ、次ね」
「……」
集中する視線は、居心地が悪い。慎は少し黙ってから、ようやく口を開く。
「……瀬谷、です」
みんな、次の台詞を待っているようだ。
でもいきなり参加させられた身だから、何も考えて来ていない。
不機嫌なせいもあって黙っていたら、空気がこれ以上おかしくなる前に、光が慎の肩に腕を回した。
「下の名前は『慎』って言うんだ。俺ら幼なじみで、八年間親友してんの」
「五分前くらいに終わったけど」
「何が?」
「友達」
慎は、つんとそっぽを向いて答えた。
「は?お前は何て薄情なことを言うんだ、まこっ!」
光は慎の肩を無理矢理つかみ、揺さぶった。
「離、せ、よっ!友達を騙す方がよっぽど人で無しだろ」
「騙す……?」
取り残された周りから、疑問が飛び出す。
「いや、それは……。って、お前の言い方のせいで、俺が悪者みたいなイメージになってんぞ!」
「詐欺師」
知るか、と口だけ動かしてから、ここぞとばかりに慎はとどめの毒を吐いた。
一瞬室内が静まり返り、それからどっと笑いが起こる。
「やだ。超ウケるんだけどー!」
「漫才みたいだしー」
「あ、それ、俺も日頃から思ってた!」
よく分からないが、空気が良い方に流れたらしい。
笑われたことでいくらか怒気を削がれ、慎はきちんとソファに座り直した。
笑いもおさまる頃、再び自己紹介の続き。
女の子の名前が最後に行く頃には、もう最初の子がわからなくなっていた。
(アキ?アヤ?……いやまてよ。アミだったかな?)
結局、最終的には誰の名前も覚えていなかった。
人の顔と名前を一致させるのは苦手だ。
血縁以外の人物で長く覚えているときは、余程馬が合ったり尊敬した、もしくは恐ろしく変わった、または嫌悪感が抜けないくらい嫌なことがあった、そんな印象を受けたときくらいだ。
ちなみに光は、真ん中の選択肢に当たった。彼は元々人見知りはしないし、話し上手だ。
今も、うまく話題に乗りながら盛り上げている。
何か質問をされれば答え、……ただそれが会話と呼べるほど続くことはなく。
話さない時は、慎は静かにその話を聞いていた。
それも少し疲れて来て、話題も慎には振られることもなくなった頃合いを見計らい、息抜きに席を外すことを決めた。
「ちょっと……」
「はいはい」
慎が鞄を持って腰を上げ、光は頷いた。
「どこに行くの?」
「トイレ!」
女の子の質問には、光が答えた。
「え?鞄を持って?」
「うん、そう。まこは今、生理中だからしょうがないのよ」
「やだあ!セクハラー」
あはははと笑いが起こる。光はその間に慎に合図をして、出ていけるように促した。
ドアが閉まり切る前、女の子が光に質問をする最後の声が聞こえた。
「ところで瀬谷くんてさ、どんな子なの?」
さして反応することもなく、慎は立ち去った。




