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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
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Rem:6 奇跡のはじまり2

カラリと晴れた日の放課後。久々に部活が休みだった光に、


「帰りに行きたいところがあるんだけど」


と誘われ、寄り道を付き合うことになっていた。

先輩へ用事があると言った光と、待ち合わせの昇降口であくびをしていた。

ようやくバタバタとせわしない音がした。


「悪い!待たせた」

「……うん」


素早く靴に履き替えながら、光は黒い腕時計に目を走らせる。


「やっべ。もう始まっているか……?」


ボソッと呟き、今度は慎を急かした。


「まこっ!ちょっち急ぐぞ」

「はいはい」


走りはしないが、早い歩みについていきながら尋ねる。


「ところでさ。行きたいところってどこ?」

「それはだな。着いてからのお楽しみってやつだ」

「ふうん」


特に深く追求することもなく、頷いた。

後からの後悔を思えば、この時にもう少し突き詰めるべきだった。


そうすれば、光にしては珍しくお茶を濁したような言葉。

彼が悟られぬように胸を撫で下ろしたことの、違和感に気が付いただろう。

駅前通りに着き、光の携帯が鳴った。


「もしもし。今駅前に着いたところ。……はいはい。……悪い。もう少し待っていてよ。じゃあな」


手短に話し、光は携帯電話をズボンのポケットに突っ込んだ。

そうして到着したのは、カラオケボックス。


「行きたかったのってここ?」

「そうだよ」


お楽しみなんて言うから、何か驚くようなものでも見せられると思っていたのに、拍子抜けだ。


「なら、普通に言えば良かったのに」

「まあそう言うなって」


慎は背中を押され、中に入るように促される。


「入りゃわかるから」


受付もしないでエレベーターへ向かう相方に、違和感を感じたのはこの時だった。


「受付……」

「いいよ、そんなもんは」

「……」


じっと見つめたら、光はその視線を交わすように目線を泳がせた。


「何か嫌だ」

「え?」

「光、何か隠してるだろ」


どんどん下へ降りてくるエレベーターの前で、後ずさる。

その扉が開いたとき、光は頭を掻いた。


「わかったわかった。説明するから、とりあえず乗れ」

「でも」

「いいから早く」


強引に腕を引っ張られ、躓くように中に入れられてしまった。

逃がさないためか、指が素早くボタン操作をする。


「実はな……」


七階へ向かって上昇する室内で、光はここへ入った目的を話す。


「合コンっっ?」

「声がでかい!」


二人しかいないので誰に聞かれる心配もなかったが、光は反射的に慎の口を押さえた。

頭を振ってその手を払いのけ、抗議をする。


「何で最初に言わないんだよ!」

「言ったら、絶対にノーって言っただろ」

「当たり前だ!おれがこういうのは苦手だって知ってるだろ、光は!」

「……あのー」


取り込み中悪いんですけど、と口を挟まれる。

エレベーターはとっくに七階へ着いていて、扉が開いていた。

エレベーター待ちをしていたらしい女性二人が、どうしていいかわからない、というようにこちらを見ている。


「あ。すいません」


光も慎もとりあえず降り、ドアが再び閉まったのを確認してから口論の続きを始めた。


「帰る」

「待て待て待て。しょうがなかったんだって」


光は妨害するように、両手を広げて前に立ちはだかる。


「一人欠員が出ちゃってさ。他に都合がつく奴がいなかったんだよ。行ったら、案外楽しいかもしれないじゃん?最初で最後、騙されたと思ってさあ」

「もう騙されたけどな」


言い訳の途中で、一室のドアが開く。


「あ!諏訪本じゃんか!」


クラスメイトの顔がのぞく。


「よう!」

「ようじゃねえから。おっせーよ。みんな、待っていたんだぜ、諏訪本」

「悪い悪い」

「てかお前、本当に瀬谷を連れて来れたのか」

「いや、おれは……」

「すっげえだろ」


光がわざと、慎の上から大きな声で遮る。


確かに、光の調子の良い言い訳の才能。

また、それにまんまと騙された慎は、ある意味すごいと言ってもいいだろう。


「何々ー?遅れてくる子が来たの?」


またドアが開き、今度は女の子が顔を覗かせる。


「うわっ!その二人があんたの友達?信じらんない!かっこいいじゃん!」


光はにこっと笑って、彼女に手を振って見せた。

途端に彼女は真っ赤になって、部屋に引っ込む。


「まあ、立ち話もなんだし待たせていることだし入ろうか」


わざと光は慎の肩に手をかけ、押し進む。


「ちょっ、光!おれはまだ承知したわけじゃないんだぞ」


睨んで、彼にだけ聞こえる声で些細な抵抗を試みるが、勝負の優劣ははっきりしていた。


「ここまで来ちゃったんだし、腹をくくれな?」


そのままとどめに背中を押されて、少しよろめきながらついに室内に入ってしまった。

振り返り、すぐ後ろにいた光の笑顔は、慎にはどう見ても悪魔そのものにしか見えなかった。


「……ったく」


少しだけ光と向き合い、慎は言った。


「ここまでわざわざ連れて来てくれて、どうも」


最後に小声で『恨むからな』と、付け加えるのも忘れずに。


「いいって。早く座りな」


光はやはり笑顔のまま、皆に見えない位置で押し付けられる慎の拳を、手の平で受け止めながら答えた。



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