Rem:5 母さん4
きっと母が心配で、でも仏間に入る勇気はなく、うろうろしながら様子を窺っていたのだろう。
慎たちの様子を母は優しい目で見守りながら、言った。
「いいのよ。七輝ちゃんは、うちの娘みたいなものですもの」
「良かったな。泣きそうな顔で心配するよりは大丈夫そうじゃないか。お前の母さん」
光の言葉に、蒼が顔を真っ赤にする。
「べ、別にっ!心配は、……そこまでしていないけどっ」
「あのなあ」
光は蒼の頭で、拳を軽くぐりぐりと回した。
「お袋さんが心配なときは、ちゃんとそう言いな。これからは、お前が支えていかなきゃならないんだからな」
「……言われなくたって、そのくらい分かってるしっ」
思春期だからか、持ち前の性格が意地っ張りだからか。
蒼は素直に返事をせず、小憎らしい言い方をしてそっぽを向いた。
「母さ……、おばさん」
慎は母に向き直った。
「蒼くんも、もうこんなに大きくなっています。今までみたいに、辛いことを隠して明るく振る舞わなくても大丈夫です。少しくらい弱みを見せたって、きっと今ならもう受け止められますよ」
「そうね」
頷きながら、母は涙ぐんだ。
「ありがとうね、蒼。心配してくれて」
「………うん」
慎は光と目を合わせてそっと笑った。それから光が切り出す。
「じゃあ、一旦俺らは帰るか」
「何で?」
「『何で』じゃないだろ。俺たちは明後日から試験よ。通夜は今日の夜だから、午後は学校に行かないでどうすんだっつの」
「あそっか」
どの道今はここにいてもやれることはないし、だからと言って状況を打破するのに起こすべき行動も分からない。
ならば、無駄に過ごすよりも学校へ行った方がいいだろう。
学校には図書室もあるし、何か良い方法が書いた本が見つかるかもしれない。
慎は頷き、光に続いて玄関へ向かう。
「突然お邪魔してごめんなさい。また今日の夜に、伺います」
「いいのよ。二人ともまたいらっしゃい。……七輝ちゃん」
「はい?」
「今は考えられないかもしれないけれど、傷が癒えたら新しい恋もするといいわ」
「え?」
何を言い出すのだろう。食い入るように母の顔を見つめる。
「まこを好きになってくれた事実さえ覚えていてくれたら、あの子は幸せよ。きっと貴女には、誰よりも幸せになってほしいと思うの。二人が思い描いたものとは違う道を選んでも、まこはきっと応援してくれるわ」
成る程。例えこの先慎以外に好きな人が出来ても、引きずらなくてもいいという配慮だろう。
慎にも、同じことが起こるだろうか?
(七輝よりも――?)
母の言葉にはただ微笑んで、慎は玄関のドアを開けた。
「また後で伺います。お邪魔しました」
(七輝と同じか、それ以上に愛せる人?無理だよ。母さん。彼女は他人と必要以上に関わるのを面倒くさがったおれが、初めて好きになった女の子なんだ)
七輝に逢いたくてたまらない。
(今もほら、七輝を想うだけで胸がぎりぎりと痛むんだ)




